【講談社大賞受賞作品】私を殺したのは、大魔法使い様ですか?

花澄そう

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殺人鬼と呼ばれる子

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「卒業試験を控えているのに喧嘩ケンカなんかで魔法を使って、相手に怪我をさせて塔謹慎とうきんしんが決まった時は、新記録に差し支えるんじゃないかとハラハラさせられたけどのぉ。
あっ、ちなみに君が火を付けた生徒は無事だったよ。外傷だけだったから、数か月の治療で跡形もなくなって今は普通に学業に励んでおる」
どうでもいい話だと思う反面、ホッとしたような気もした。

「でも何はともあれ、無事7歳で卒業、流石さすがじゃよ。それより飲まないのかね?リンゴジュース」
そう言われてリンゴジュースに手を伸ばす。
一口を飲むと、あまりにも美味しくて慌ててもう1口飲んだ。

……美味しい。

ふと、向かい側からニコニコとした学園長の視線が飛んで来ていて、なんとなく気分が悪くなって机の上にコップを戻した。

「で、かなり前から話しているが、さすがにもう決まったかね?就職先は」
机越しの学園長は期待に満ちた顔で僕の返事を待つ。


「……前にも言ったけど、僕は何もしたくない」
そう言うと、驚きが隠せない顔を向けられる。

「まだそんな事を言っているのか?こんな好条件の案件の数々なんてそうそうないんじゃぞ?!」
「別に、興味ないし」

「君の特性を考えると、大統領のSPなんかいいんじゃないかと思っているんじゃがのー。無口な所も向いていると思うぞ。待遇も申し分ないぞ」
「いらない」

「そうか……。まぁ、君はまだ7歳だしのぉ~。正直、働くにはあまりにも早過ぎる。通常ならまだ小学生だが、魔法学校は卒業したら法律上、何歳であっても一人前の大人と同じと見なされてしまうのは君も知っているはずだ。
この国は完全無職は許されていない。労働は国民の義務とされているからのぉ」

人と、関わりたくない。
学園でも、塔でも殺人鬼と呼ばれ、蔑まれてきた。
だから、就職先でも同じになるのは目に見えている。

「じゃあ……一番働かなくていい所か、誰とも話さない所がいい」
僕の言葉に大きなため息をつかれる。


「人生投げやりになるにはあまりにも早いんじゃないかのぉ……そうじゃ!」
学園長は何か思いついたように手を叩いた。

「……こういうのはどうじゃろう?
カミヅキ君がここの講師の仕事をするのなら、わしと『家族』みたいに一緒に住んでみないか?
まぁ学園の規則上、家みたいなのは持てないしあまり学園の外には出れないし完全寮暮らしにはなってしまうが」
「えっ……」
その言葉に落としていた視線を上げて学園長の目を見た。
嘘付いているようには見えない目に、動揺が隠せない。


一緒に……、住む……?

家族、みたいに?
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