【講談社大賞受賞作品】私を殺したのは、大魔法使い様ですか?

花澄そう

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殺人鬼と呼ばれる子

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僕は誰も殺したくなかった。

顔も覚えてないけど、母さんを、父さんを……お兄ちゃんを殺したくなかった……。

時々絵本に出て来る『家族』という形を……僕もやりたかった……。

守ってほしかった。
愛されてみたかった。
優しく抱きしめてほしかった。

魔力さえなければ、僕は普通の人間で居られたのに……
やっぱり魔力が……憎い。

「ああぁ、あぁーー!!めてくれぇぇ――――!!」

そう叫ぶ総看守を見て、少しでもいい気味だと思った僕は……
みんなが言う通り、本当に殺人鬼なのかもしれない。

そう思うと悲しくて、眉間にちからが入って目頭が熱くなった。


「え!?なんで、魔法!?……これ、カミヅキくんが!?」
そんな驚く声に目をやると、バインダー片手に駆けつけて来る副看守が映った。

「総看守!暴れないで!地面に転がって火を消して!……あぁ、どうしよう」
副看守の言葉は、火だるまになっている総看守の耳には全く入っていないよう。

「水場は遠いし……そこの君!ぼーっと突っ立ってないで!すぐ人を呼んで来て!あと水もありったけ持って来て!早く!!」
叫び声を聞きつけて後から駆け付けてきたのか、さっきまでは居なかったはずの看守たちに指示をした副看守は、次は開いたままの鉄格子の扉をくぐり抜けて僕の元に来た。

「カミヅキ君!今すぐ止めて!そうじゃないと、本当の殺人鬼になっちゃうよ!」

「何言ってるの?僕はとっくに殺人鬼だよ」
と言うと、予想外に怒鳴られる。

「違う!君は殺人鬼なんかじゃない!」
「…………殺人鬼、だよ……。殺人鬼のカミヅキって、いつも、みんな言ってるよ」

「違う!殺人鬼なら、そんな顔しないし、そんな風に泣かないよ」
副看守は僕の前で目線を合わすようにしゃがんだ。

「泣か……ない……、えっ、あれ……」
泣いているつもりがなかった僕は、驚きほほにそっと手を当てる。
すると、僕の手に生ぬるい水が沢山付いた。

その事に不思議に思った。
泣いた理由が全く思い当たらなくて、だからか、この濡れた手のひらについている涙らしいものを涙と思えず、放心した。
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