66 / 395
殺人鬼と呼ばれる子
5
しおりを挟む僕は誰も殺したくなかった。
顔も覚えてないけど、母さんを、父さんを……お兄ちゃんを殺したくなかった……。
時々絵本に出て来る『家族』という形を……僕もやりたかった……。
守ってほしかった。
愛されてみたかった。
優しく抱きしめてほしかった。
魔力さえなければ、僕は普通の人間で居られたのに……
やっぱり魔力が……憎い。
「ああぁ、あぁーー!!止めてくれぇぇ――――!!」
そう叫ぶ総看守を見て、少しでもいい気味だと思った僕は……
みんなが言う通り、本当に殺人鬼なのかもしれない。
そう思うと悲しくて、眉間に力が入って目頭が熱くなった。
「え!?なんで、魔法!?……これ、カミヅキくんが!?」
そんな驚く声に目をやると、バインダー片手に駆けつけて来る副看守が映った。
「総看守!暴れないで!地面に転がって火を消して!……あぁ、どうしよう」
副看守の言葉は、火だるまになっている総看守の耳には全く入っていないよう。
「水場は遠いし……そこの君!ぼーっと突っ立ってないで!すぐ人を呼んで来て!あと水もありったけ持って来て!早く!!」
叫び声を聞きつけて後から駆け付けてきたのか、さっきまでは居なかったはずの看守たちに指示をした副看守は、次は開いたままの鉄格子の扉をくぐり抜けて僕の元に来た。
「カミヅキ君!今すぐ止めて!そうじゃないと、本当の殺人鬼になっちゃうよ!」
「何言ってるの?僕はとっくに殺人鬼だよ」
と言うと、予想外に怒鳴られる。
「違う!君は殺人鬼なんかじゃない!」
「…………殺人鬼、だよ……。殺人鬼のカミヅキって、いつも、みんな言ってるよ」
「違う!殺人鬼なら、そんな顔しないし、そんな風に泣かないよ」
副看守は僕の前で目線を合わすようにしゃがんだ。
「泣か……ない……、えっ、あれ……」
泣いているつもりがなかった僕は、驚き頬にそっと手を当てる。
すると、僕の手に生ぬるい水が沢山付いた。
その事に不思議に思った。
泣いた理由が全く思い当たらなくて、だからか、この濡れた手のひらについている涙らしいものを涙と思えず、放心した。
2
お気に入りに追加
52
あなたにおすすめの小説
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

伯爵令嬢の秘密の知識
シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のグランディア王国ルナリス伯爵家のミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる