【講談社大賞受賞作品】私を殺したのは、大魔法使い様ですか?

花澄そう

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殺人鬼と呼ばれる子

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「そ……それは……」
「やっと分かったか。そういう事だ。だからもう俺の行動に口出しすんな!」
そう言われて副看守は下唇をぐっと噛んだ。


それからというもの、よくかばってくれていた副看守は庇ってくれなくなり、申し訳なさそうにうつむくだけだった。


…………

……



時々、上の方からうなり声が聞こえる塔生活も、間もなく1カ月が経とうとしている。

あと数日でここから出れる。
……でも、どうでもいい。

出て、学園に戻ったからっていい事なんて無い。

だって、僕はどこに行っても嫌われ者でしかないから。




僕は、生まれ持った魔力量が普通よりも飛び抜けて多かったらしく、1歳になった頃に魔力が暴走した。

その暴走のせいで、僕が住んでいた町は瓦礫と火の海になってしまったらしい。
もちろん記憶には全く無い。

でも僕のせいで沢山の人達が苦しみ、死んでいったそうだ。

そして総看守の家族や、顔も覚えていない僕のお父さんやお母さんも、その中に……。


「僕なんか……生まれて来なければよかったのに……」

魔力が憎い……。
魔力さえ無ければ……。


ひざを抱え、塔に入れられる直前の出来事を思い出す――

『カミヅキって家族いねーってほんと?』
何歳も年上のクラスメイトが渡り廊下で笑いながら聞いてくる。

『そうだけど』
そう答えるとさらに笑われる。
何も笑われる事なんて言ってないはずなのに。

『僕はいるよ!早く会いたいっていつも手紙で言われるような家族が!羨ましいだろ?手紙、見せてやろうか?』
自慢?

『いい』
『えー、なんでだよ。ってのをお前知らねーから、特別に見せてやるんだろ。俺の優しさだよ!や・さ・し・さ!』

普通の家族……
って……何?

家族ってなんなの?それって必要?そんなにいいもの?
どうせ顔を見る事も出来ない相手なのに?

そんなの知らないし、知りたいとも思わない。


無視して通り過ぎようとすると肩をグッと捕まれる。
『強がんなよ』
そう言われて睨んで振り返る。

『いいって言ってるだろ!』
『な……んだよ。家族を殺したくせに!殺人鬼のくせに!本当は羨ましいんだろ』

いつもそうだ。
殺人鬼と呼ばれる度に、心がガチガチに冷えて凍っていく感覚がする。

ルールや規則なんて、もうどうでも良く感じてしまうような感覚にさせられる。

『……るさい』
『お前の母ちゃんも馬鹿だよなぁ、お前みたいな地味で面白くもない奴なんて産まなければよかったのにな。そしたら今頃幸せに暮らして……うわっ!』


そして親の事を悪く言われる度に……いつも、自分でも止められない程に怒りが吹き上がる。

親なんて記憶に一切無いのに。

どんなに望んでも、もう一生会うことも出来ないし、触れることも出来ない。
そんな親が、何故かずっと尊くて、けがされる事だけはどうしても許せなかった。

『黙れ――――!!』




キーと鉄格子が開く音にハッと現実に引き戻される。

顔を上げると総看守が鉄格子のドアに手をかけて立っていた。

その時、瞬時に違和感を感じた。
それはいつも誰かとセットで行動しているのに、今日1人だという事だった。
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