【講談社大賞受賞作品】私を殺したのは、大魔法使い様ですか?

花澄そう

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月夜

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慌てて手を掴んで止めようとしてみるけど、完全に力で負けているのかビクともしない。

「何って、言わねぇからお前をあばくんだよ。やっぱ、この辺りが怪しいんだよ」
あばくって……」
「叫びたければ叫べばいい。どうせもう誰にも聞こえねぇよ」

誰にも聞こえない、って……まさか、またチート魔法!?

「やだ!止めてよっ」
手で肩を押して足をバタつかす。

「暴れんな。それ以上抵抗するんだったら縛り上げるからな」
「しっ、縛っ……!?ひゃっ、やだ」
そうこうしている間にシャツの中の手が上にさらに上がっていく。


「止めてって言ってるでしょ!!馬鹿!!」
そう叫んでしまったと思った時には、私は奴のほほを打っていた。

一瞬で部屋に響いた乾いた音。
そして今は驚く程に静けさを取り戻している。

この状況に、私は叩いた格好のまま微動だに出来なくなった。


叩いた衝動で横を向いたままだった奴の顔が静かに戻ってくると、次は殺意を感じる程の剣幕で睨み見下ろされた。

再び頭上に、THE ENDの文字が浮かび上がる。


でも……。私が何をしたって言うのよ……。
こんな事されて、大人しくしてろっていうの?

関わりたくないのに……どうしてこんな事に……


「もう……やだ……。なんなのよ……。あんたなんか……大っ嫌い!」
上ずった自分の声が聞こえて、そこで初めて自分は泣いてるんだと分かった。

すぐに生ぬるい涙がこめかみ辺りに流れて行く感覚が走ると、奴の顔から殺意が消えていくのが目に見えて分かった。

その様子を見届けてから目元をパジャマの袖で覆い隠すと、舌打ちが耳に入ってきた。

「……んだよ」
再びベッドのきしむ音が耳に飛び込んで来る。


沈んでいたベッドがふわりと戻った。

叩いたんだから即座に殺されてもおかしくないはずなのに、どうして立ち上がったんだろうと不思議に思い、おおっていた手をズラした。

すると、月明りを浴びながら出窓に片足を掛けている、奴が映った。


「誤解すんな。てめぇのその貧相な体なんかに興味ねぇよ」
「貧相ですって!?」
そう言った時、奴の違和感に気付いた。

「今日は出直す。でも、次は絶対吐かすからな」
目くじらを立ててはいるけど、その顔は不思議なほどに困っているように見えた。

窓側に顔を向けていた奴が、忘れ物をしたかのように振り返る。
「あと、俺は『あんた』じゃなくて『ディオン』だ」

何かと思ったら、奴はそんなどうでもいい事を言う。


ディオンという奴にキョトンとし目を返すと、次は目にも止まらぬ速さで出窓から飛んで行った。
その勢いのせいで出窓の白いカーテンがふわりと揺れる。

「速っ……」

ディオンという奴、動揺していたように見えた。
あんな血も涙もなさそうな奴が、動揺なんて……なんで?

思い返して原因を追求してみたけど、どうしてもタイミング的に『私が泣いていたから』という考えにぶつかってしまう。

でも、さすがにそんな理由な訳がなくて、首をひねるしか無かった。
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