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月夜
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しおりを挟む頭をかいて深いため息をついた奴は言う。
「別に、もう何もしねぇし」
えぇ!?そんなの絶対嘘!そんな言葉、信じれるわけないに決まってるでしょ!?
ってか、何もしないなら何しに来たの!?
まさか、平和にお話でもしに来たわけ!?
こんな時間にわざわざ女子寮に忍び込んで!?
声が出せない私は、心の中で盛大な文句を言ってのけた。
「面倒だからさっさと俺の質問に答えろ。お前、なんでその魔力を隠してんだ」
そう言えば私が学園長を押し付ける前に、そんなような事を聞いて来てたっけ?
まさか、それだけの為に……?
それさえ言えば帰るのかな?
そう思って、観念したような気持ちで出窓にかけた足を下ろし、奴と向き合う。
『魔力なんて隠してないわよ』
そう口にした瞬間、気付いた。
今は一切声が出せないという事に。
すると奴も忘れていたのか、「あ」と短い声を出した後、私の顔をのぞき込むように手を伸ばして来る。
この流れだとかけた魔法を解くんだろうけど、その美し過ぎる顔があまりに近くて、思わず逃げるように顔を引いた。
「逃げんな。魔法解くだけだ」
意識したくないのに勝手に高鳴りはじめた自分の心臓に嫌気がさす。
ギュっと目を閉じると、長くて綺麗な指が私の唇に触れた。
唇に触れられるなんて思わなくて、心臓が飛び跳ねて、情けない声が出てしまう。
「ひぇぇ……」
その声が耳に入って来て、やっと声が出せるようになったんだと分かったけど、穴があったら入りたい気分になったのは言うまでもない。
そんな私に、奴は容赦なく怪訝な顔で追い打ちをかけてくる。
「なんだ、その変な声は。キモッ」
「うっ」
悔しい!でも、確かにさっきの声は変だった。でも、言い方ってものがあるでしょ!
「もう話せる。だからさっさと言え、何を企んでるのか」
唇に触れた指先は顎に滑り、グイっと持ち上げる。
そのせいで頭に巻いていたタオルが床にバサリと後ろに落ちて、まだ濡れている髪が私の肩に落ちた。
「言っとくけど、この俺から逃げられるなんて思うなよ?」
低く、男らしい声が私の鼓膜を揺らす。
私は視線までも逃がさないと言われているような冷ややかで、とても美しい瞳で覗き込まれ、縫い付けられたように目が離せなくなる。
さらに心臓が早くなって来て思った。
きっとこれは、命の危機を感じているせいだって。
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