【講談社大賞受賞作品】私を殺したのは、大魔法使い様ですか?

花澄そう

文字の大きさ
上 下
45 / 395
放課後の実験室

3

しおりを挟む
つかむ勢いが強すぎて、そのままの後ろにあった壁に背が強く当たり、痛みからうなり声が出る。

「うっ……」
「この俺にそんな口を利いて、死にてぇのか?」
完璧すぎる顔をしたこの男は、憎悪ぞうおむき出しで私の首に力を加える。

ヤバイ……。
これ、本気だ……

息が……出来ない。

「はっ……あ……」
苦しくて、もう自分の口から『止めて』と言う言葉も出せない。
締め付けてくる手を、両手で掴んで引き離そうとしてもビクともしない。

「や……」

めちゃくちゃ苦しい……。


「細いな。今すぐにでも、へし折ってしまいそうだ」
クスりと笑う様子がおぞましくて、全身に鳥肌が立った。

「うっ……」
掴んでいる手に抵抗の表しで爪を立てると、急に指先の感覚が無くなり、力が入らなくなった。

「抵抗すんなよ。手加減できなくなるだろ?」
妙に楽しそうな声で話すこの男は続ける。
「俺を侮蔑ぶべつしたんだから仕方ねぇよなぁ?
でも優しい俺は選ばせてやるよ。いたぶった後、物理で死にてぇか……魔法で焼き殺されてぇか」

そう言うと、ほんの少し絞まりがゆるめられ、微かな酸素が細くなったのどを通って徐々じょじょに肺を満たしていく。

その時を待っていたかのように、この男は無駄にいい声でささやいた。

「さぁ、答えろよ」

どっちかなんて、選べれるわけが無いのに。

「早く」
追い討ちのように言わた言葉にギュッと目をつむると、余った方の手で私の前髪をわし掴みして来た。

っ……」

「答えろっつってんだろ」

そのまま頭を揺すられた後、この瞳に歪みきった美しい笑みが映り込んだ。


何、こいつ……、笑ってる……?
……完全に狂ってる。

殺人を、楽しんでる?
もしそうだとしたら……こいつは憎き、あの黒髪の奴と完全に同類だ。


その時、
「なーんてな」
と、語尾に音符マークでも付きそうな程に楽し気な声が落ちて来たと思うと、パッと手を離された。

その瞬間、私は重力のままに冷たい床に崩れ落ちた。
そして、むせるように何度もせきが出る。

「はぁー……はぁー……」
脳に酸素が足りなくて、頭がひどく重い。
言うならば、酷い貧血なんてとっくに通り越している感じだ。

肩で息をする私は、ドンと壁に背を預ける。
クラつく後頭部を壁にり付けると、耳鳴りがする鼓膜こまくにクスクスと笑い声が入って来てひどい不快感をまねく。

服のれる音がして床から視線を上げると、奴は私を覗き込むようにしゃがみ込んでいた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

処理中です...