【講談社大賞受賞作品】私を殺したのは、大魔法使い様ですか?

花澄そう

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放課後の実験室

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つかむ勢いが強すぎて、そのままの後ろにあった壁に背が強く当たり、痛みからうなり声が出る。

「うっ……」
「この俺にそんな口を利いて、死にてぇのか?」
完璧すぎる顔をしたこの男は、憎悪ぞうおむき出しで私の首に力を加える。

ヤバイ……。
これ、本気だ……

息が……出来ない。

「はっ……あ……」
苦しくて、もう自分の口から『止めて』と言う言葉も出せない。
締め付けてくる手を、両手で掴んで引き離そうとしてもビクともしない。

「や……」

めちゃくちゃ苦しい……。


「細いな。今すぐにでも、へし折ってしまいそうだ」
クスりと笑う様子がおぞましくて、全身に鳥肌が立った。

「うっ……」
掴んでいる手に抵抗の表しで爪を立てると、急に指先の感覚が無くなり、力が入らなくなった。

「抵抗すんなよ。手加減できなくなるだろ?」
妙に楽しそうな声で話すこの男は続ける。
「俺を侮蔑ぶべつしたんだから仕方ねぇよなぁ?
でも優しい俺は選ばせてやるよ。いたぶった後、物理で死にてぇか……魔法で焼き殺されてぇか」

そう言うと、ほんの少し絞まりがゆるめられ、微かな酸素が細くなったのどを通って徐々じょじょに肺を満たしていく。

その時を待っていたかのように、この男は無駄にいい声でささやいた。

「さぁ、答えろよ」

どっちかなんて、選べれるわけが無いのに。

「早く」
追い討ちのように言わた言葉にギュッと目をつむると、余った方の手で私の前髪をわし掴みして来た。

っ……」

「答えろっつってんだろ」

そのまま頭を揺すられた後、この瞳に歪みきった美しい笑みが映り込んだ。


何、こいつ……、笑ってる……?
……完全に狂ってる。

殺人を、楽しんでる?
もしそうだとしたら……こいつは憎き、あの黒髪の奴と完全に同類だ。


その時、
「なーんてな」
と、語尾に音符マークでも付きそうな程に楽し気な声が落ちて来たと思うと、パッと手を離された。

その瞬間、私は重力のままに冷たい床に崩れ落ちた。
そして、むせるように何度もせきが出る。

「はぁー……はぁー……」
脳に酸素が足りなくて、頭がひどく重い。
言うならば、酷い貧血なんてとっくに通り越している感じだ。

肩で息をする私は、ドンと壁に背を預ける。
クラつく後頭部を壁にり付けると、耳鳴りがする鼓膜こまくにクスクスと笑い声が入って来てひどい不快感をまねく。

服のれる音がして床から視線を上げると、奴は私を覗き込むようにしゃがみ込んでいた。
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