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エピローグ
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しおりを挟む「遥……。今まで私達を支えてくれててありがとうね。
遥のお陰でまともな生活が出来ていたのに、ちゃんとお礼言うタイミングが無い間にそっちに行っちゃって……」
その言葉を聞いた途端、目からポロッと涙が流れ出て、話を聞いてない彰は隣で慌てているようだった。
「あと、遥は気付いていたと思うけど、実は勝手に遥が貯めてるお金から、お金借りたりした事もあって……。
それは今度ちゃんと返すからね」
「うん……」
知ってるよ。
「こんなお母クンでごめんね。本当に、遥に頼りっきりで、辛い思いを沢山させてきたわよね」
「……いいの。私、お母さんが……家族みんなが好きだから」
「私も、遥が好きよ。今まで本当にごめんね。遥は自慢の娘よ」
「……うん」
驚くほどに涙が出てきた。
今まで私達を支えてくれててありがとうね。
遥が好きよ、
遥は自慢の娘よ……
それは、ずっと欲しかった言葉。
私にとって、これ以上にない言葉。
…………
……
彰が渡してくるティッシュを受け取って鼻をかむ。
「良かったな。俺はまだ全然許せてねぇけどな」
「えっ!?そうなの?」
「当たり前だろ。いくら謝っても綺麗ごとを言っても、遥に男の接客なんてさせて来たのは紛れもなくお前の母親だしな」
「でも……その仕事を選んだのは私だし」
「まーた俺より母親の肩を持つ」
「えっ、今持った?……ダメかな」
「別にいいけど」
そう言うと明らかに不貞腐れた様子。
いや、これは拗ねているというのか……。
彰は、自分が一番じゃないと駄目なのかもしれない。
……そんな事心配しなくても、十分過ぎるくらいに私の中で一番なのに。
彰の引き締まった二の腕に、自分の腕を巻きつけて言う。
「彰が一番大好きだよ」
すると不貞腐れてはいるけど、もう怒っていない彰の顔が映った。
「知ってる」
ふわりとカーテンが揺れると、少し開いた窓から小鳥の囀りが聞こえた。
「彰……私、幸せだよ。こんなに幸せでいいのかなって思うくらい」
彰の肩にもたれかかかる。
「……俺も。親父に感謝だな」
彰の言った意味が分からず、そのまま首を上げて彰を見る。
「付き合いを認める条件その一、彰と共に留学。
その二……即刻、夜の仕事は辞める」
前にお義父さんが出した条件を何故か復唱する彰に首を傾げる。
「何?突然」
「……お前から夜の仕事を辞めさせるの、俺が言っても無理そうだったし。だからあの条件を出した親父に感謝してるんだよ。
やっぱ夜の世界には色んな奴がいるから心配だし⋯⋯疑似恋愛だかなんだか知らねぇけど、擬似でも浮気みたいで気分悪いしな」
出された条件通り、私即座に夜の世界から足を洗った。
だから今の私は留学代も、大学費用も、全部お義父さんに立て替えて貰っている状態だ。
本当は東十条家側で全額出したかったみたいなんだけど、それだけは断固拒否した。
出してもらったら、彰と対等じゃなくなる気がして嫌だったから。
正直、学費を立て替えてもらうのは戸惑ったけど、それは仕方ない。
私のせいで彰や東十条家に泥が塗られるなんて絶対嫌だし。
学費を稼ぐため、というちゃんとした理由があったとしても、あの仕事を理解してくれる人は、きっと世の中から見たらほんの一部の人間だろうから。
でも、お義父さんが出した条件のうち、もう一つの条件の理由は未だによく分からない。
なんで私と彰を留学させたかったんだろう。
私は前からずっと留学がしたかったから、この条件は私にとっては願ったり叶ったりだったけど、彰はちょうど留学から返って来たところだったし、色々意味不明だ。
一応、前に留学した時とは違う学科らしいし、学ぶ内容も経営学とかそっち系だし、東十条ホールディングスは完全グローバルだから彰も学んで絶対損は無いとは思うけど……
やっぱ考えても分からない。
でも、早く恩返し出来たらいいな。
「私も感謝だよ。
こんな高待遇で学びたい事を思う存分学ばせてもらえて」
「お前、卒業後は一度どっかで就職してから独立したいって言ってたよな?」
「うん。本当はね。でも彰との将来やお義父さんとの話で迷ってるんだ」
『俺には出来なかった姿、見せてくれるか?』
願いにも似た、お義父さんの言葉。
きっと叶えなくても文句なんて言われない。
そんな気がするけど、私はあの話を聞いた時、叶えたいと思った。
「じゃあさ、大学出たあとは俺と組もうぜ」
「え……?」
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