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犬、やめました。

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私の目に、頭に浮かべた人物、ユイユイの姿が映った。


「ねぇ、彰。あれってユイユイだよね?」

「ん?どこだ」
「ほら、あそこ。紫のドレスでグラスを手にしてる……あっ!」
バルコニーから手を出して指差したタイミングで、ユイユイらしき人は会場の中に入って行って、見えなくなってしまった。

「ちょっと、私、確認してくる」
そう言ってバルコニーの出入口のドアに向かおうとすると、すぐに腕を掴んで引き止められる。

「行くなよ。どうせ見間違いだ。俺呼んでねぇし」
「でも……」
「いいから、ここに居ろ。そろそろ時間だし」
そう言いながら強引に後ろから抱きしめられる。
「時間……?」

その時――
ヒューと高い音が空に響いた後、ドーンという音とともに空に大きな火の花が咲いた。


「……うわぁ……凄っ」

休むことなく次々と空に上がる迫力のある花火が綺麗で、瞬きする時間も惜しいくらいだ。

小学生ぶりで忘れてたけど、彰の誕生日パーティの最後は、いつもこうして花火が上がってたんだった。

「綺麗……」

「……負けてねぇよ」
花火の音に紛れてそんな声が聞こえた気がして彰の方を振り返ると、瞳までも花火色に染まった彰が熱っぽい視線を送って来ていた。

「え……今なんて?」
「もう、言わない」
私を抱きしめたままそっぽ向く。

「なんでよ。もう一回言ってよ」と、膨れながら言うと、「一回で聞かないお前が悪い」と言われ、何かを誤魔化すように口を塞がれた。


こんな、人から見えそうな場所でキスされているからか、ドンドンと心臓にまで届きそうな重低音のせいか、

それとも⋯⋯
いつもよりその熱を帯びたその鋭い瞳のせいか……


ひどくドキドキさせられた。

…………

……

「綺麗だったね」
「お前、小さい頃から花火好きだよな」
「よく覚えてるね。さすが首席入学の帰国子女」
「なんか、お前に褒められると気持ち悪りぃな」
「それ酷くない!?」
何故かじっと見てくる彰は私の言葉には返事をせずに、とんでもない事を言い出す。

「花火も終わったし、そろそろ抜け出すか」

「……えっ⋯⋯抜け出す!?何言ってんの!?主役なのに」
「もう十分だろ。フィナーレの花火も終わったし、さっきラストの挨拶もやったし。後は交流の雑談タイムなだけだ」

「え……」
よく分かんないけど、良いのかな?
まだあんなに人がいるじゃん。

せっかく認められたのに、こんなんじゃ彰のお父さんにまた反対されたりしないのかな。

「ほら、行くぞ」
そんな事を考えていたけど、手を引く彰があまりにも綺麗に微笑むから、私には止める事なんて出来るわけが無いと思った。

「連れて行きたい所がある」

「連れて行きたい……所?」
こんな時間から?
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