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犬、やめました。

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「信じられん。離婚しても提携が外れないどころか、融資までするだと……?」
「それ程に、母さんもいい加減離婚したいらしいぜ。仮面夫婦はいい加減もう辞めたいってさ」

「くくっ……何か企んでいるとは思ったけど、こんなこんな奥の手を持っていたとは」
と笑い出す彰のお父さんは、机の上に紙を置くと表情が消えた。

「こんな事をしたところで、私はお前らを認めたりはしない。
由緒ある東十条家に凡人の血は不要。
私は……東十条家の当主として生まれて来て東十条家を守るという使命を課せられて……」
「出たよ。親父、もうそれはいいから」
遮るように言った言葉にピタリと口を止めた彰のお父さんに、彰は首をひねって聞く。

「それいつも言うけど、親父の意見じゃねぇだろ?」

「…………どういう事だ」
「まさか自分で気付いてないのか?
その言葉は一語一句、爺ちゃんの受け売りだろ?」

その言葉を聞いた彰のお父さんは、口の力が抜けたかのよう。
それに反して、彰の口角が微かに上がったのを私は見逃さなかった。



彰は机の端を人差し指でトンと叩いてから口を開けた。

「時代は変わる。その時正しいと言われていたものもがくつがえされる事なんて山のようにある。
それは爺ちゃんが言うことだって例外じゃない。
正しいと思っていた事が本当に正しいかなんて誰も分からない。
だから、人が言っていた話を鵜呑うのみにするんじゃなく、自分がどう思うか、どうしたいかじゃないのか?」

彰のお父さんはジャケットのポケットからハンカチを出して額の汗を拭く。
「彰。父親に意見するのか」

「ああ、いくらだって意見してやる。
早く言えよ。爺ちゃんの意見じゃなく、親父おやじの意見はどうなのかを」


「私の……意見……」
そう呟くと、伏し目がちに固まる彰のお父さん。

そして、ゆっくりと香織さんの方に目を向けたタイミングで彰は追い打ちをかける。

「母さんと離婚して、香織さんと共に居たいってのが、本当の親父の意見なんじゃないのかよ」

凄い。
彰のお父さんの表情がみるみる自信を無くして来てるみたいだ。

「いや…………そんなの、駄目に決まってる。俺は東十条家の一人息子で唯一の跡取りで、その為に生まれて来て⋯⋯」
頭を抱え込んで、ブツブツと呟いたあと、ハッキリとした声で言った。

「……俺の意見うんぬんでは無い。……いかに東十条家を守っていくのか、お父様の遺言を裏切らずにやっていくのか……」

「別に裏切って無いだろ」
「彰は知らないだろうが、お父様は私に東十条家を託して死んだ!だから……」

「東十条家を託して死んだからって、なんでそうなるんだよ!
爺ちゃんは幸せになるな、なんて言ったか!?
むしろ、幸せになってくれって言って死んだだろ!」


「………………えっ……、なんだそれは。……幸せになってくれ……?って………………誰が言ったって?」
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