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犬、やめました。

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「でも私達が初めて出会ったのは、三歳の時になります。
そして翌年の四歳の時には、彼女にプロポーズをしています。
当時、彼女が好きだった教育番組のキャラクターをモチーフにしたオモチャの指輪で」

『彰君、可愛いじゃないか』と前列にいる高貴な雰囲気の年配男性が暖かな目でクスクスと笑うと、隣にいる同年代の女性と笑みを深めた。


彰、覚えてたんだ。
あんな昔の事。
絶対に覚えてないと思っていたのに。

もう、私だけの記憶だと思っていた。

彰には気持ち悪がられそうだから絶対に言わないけど、実はその指輪はまだ家で保管している。
引っ越しを繰り返しているうちに、結局崇お兄ちゃんの折れた鉛筆は途中で捨てたけど、彰がくれたオモチャの指輪だけはずっと捨てれなかったのよね。



「思い返せばその頃には、もう既に彼女が好きだったと思います」
その言葉に驚いて首を彰の方に振ると、チラっと流し目で私を見てから前を向いた。

「でもその気持ちに気付けなかった私は、彼女が自分の方を向かない事に、自分ばっかり彼女を求めてる事に苛立いらだちや不満を感じ始め、次第に彼女を傷付けるようになって行きました。
嫉妬しっとや愛情の裏返しで、本当は一番大事にしたかったはずの彼女を散々傷付けて来ました」

これが本当なら、彰が私にして来た意地悪な態度の数々は、私が好きという気持ちから来たものになる。

辛かった。
トラウマになりそうな程に。

教室でみんなの前で日記を読まれた事も、公開でキスされた事も、他の男の子と話しただけで毎回意地悪してくるのも、崇お兄ちゃんの名前を出すだけでブチ切れらるのも……。

でも、それが嫉妬や愛情の裏返しだったなんて……

どうしよう。



こんな事で喜ぶなんて、私……チョロ過ぎだよね?
過去の私が知ったら怒る?

⋯⋯ううん。
きっとそんな事ない気がする。
だって、私は昔っから彰が大好きだったから。

あんなボロボロになったプラスチックの指輪を、ずっと捨てれなかったのが何よりの証拠。

だから本当の初恋の相手は、きっと……


「謝っても許してもらえるかは分かりません。
でも、そんな過去の自分もいつか許してもらえる位に、彼女を世界で一番幸せな女にしたいと思っています」

……は?
何、それ。

「まだまだ未熟な私達ですが、皆さまには温かく見守って頂けると……」

その時、司会者に返したばかりのマイクを勢いよく取り返した。

「ちょっと待って!」
会場の端まで響く声で叫んだ。
彰は目を見開き驚いた顔を私に向ける。
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