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犬、やめました。

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「何?これ」
受け取ってしまった物は、酷く手触りのいい白い毛のかたまりのよう。

「それ着とけ。そして絶対に脱ぐなよ」

そう言われて広げると、ポンチョ型のファーのショールだった。

数秒経ってからようやく理解出来た私は、思わずクスっと笑ってからうなずいた。
「うん」

「おい、何がおかしいんだよ」
「別に」
と言いつつも、機嫌が悪くなった原因が独占欲だと分かって、嬉しくてニヤけ顔が止まらない私は、指で両頬を摘まれて口をヒヨコにさせられてしまった。

「ひぇ!?」
「この口、ムカつくな」
一見、機嫌が悪そうに見える彰なのに、どこか照れているようにも⋯⋯


そんな時、ノック音が鳴り彰はドアの方に首を振ってパッと手を離される。

「彰お坊ちゃま、そろそろ開演致しますのでご準備を」
「分かった。すぐ行く」
ドア越しに返したその言葉に、さっきまでの空気と一変して、急に不安と緊張が舞い降りて来た。


不安に駆られて、背を向けた彰の腕を勢いよく掴む。

「待って!私、やっぱり上手く出来るか心配だよ」
振り返る彰は片眉をかすかに上げると、ため息をついて頭をでて来た。

「……お前って、いきなり誰も出来ない事をするクセに、急に小心者になるよな。……まぁ、そこも面白いし悪くないんだけど」

喜んでいる場合じゃないのに、再び出て来た『悪くない』と言うワードに、胸の中で小さな喜びが顔を出す。
だって彰専用の翻訳をすると、『そこも面白くて好きなんだけど』と言ったのも同然だからだ。

撫でていた手が肩に落ちてくると、真剣な目で私を覗き込んでくる。

「俺たちは悪い事なんて何もしてない。だから逃げも隠れもしたくねぇし、そんな事をお前にさせたくもねぇんだよ」

「彰……」
「周りにもちゃんと祝福して貰える、そんな道を俺は選びたい。
なら、ちゃんと親父と向き合って話すしかねぇだろ」

嬉しい。
そんな風に考えてくれていたなんて……。
嬉し過ぎて涙腺が緩みそうになる。

「なっ」
「……うん」

まだまだ、私ばっか好きなんじゃないかって、時々不安になるけど、こんな話を聞くと彰の気持ちは本物なんだって思える。

「お前は正々堂々としておけばいい。基本は俺に任せておけばいいから」
そう言いながら、背中に手を回してギュっと抱きしめて来た。
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