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追憶

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「ごめん……せっかく呼んでくれたのに。……今、警察の取り調べとか……無理かも……」
うつむくとボロっと涙が地面に落ちて、雨上がりの地面に消えていく。

「遥……?」
そう言ってかがもうとする彰を感じて、「ごめん、一人にして」と言って私はその場から逃げ出した


……のに。


目の前の信号が赤に変わって、目に入った陸橋の階段を駆け上がりながら言う。
「一人にしてって言ってるでしょ!来ないで!」

すると目と鼻の先で走って追いかける彰が叫んだ。
「お前、すぐ逃げるクセどうにかしろ!」

もう、逃げ切る事なんて無理。

そう思って諦めた私は、陸橋のド真ん中で背を向けたまま立ち止まった。



「……なんで、いつも追いかけてくるの?一人にしてって言ってるのに」
息切れが止まらない。
二人の粗い息遣いは、陸橋下を通る車の音に時折かき消される。

「いつも?俺そんな事してたか?」
「してたよ。大学でも私を探して、既読無視も、電話に出ないのも、全部彰を避けてるからじゃん!なんで分からないの?」

「だったとしても、こんな時間にそんな状態の遥を一人になんて出来るかよ」
酷い事を言ってるのに、そんな優しい言葉を返さないで。
胸が苦しい。

「大丈夫だよ。もう、大人なんだから」
「大丈夫なわけねぇだろ」
「大丈夫だから!だからほっといて!」

その時、背中側から水を含むような靴音がして、ゆっくり振り返る。

すると、輝きを増した雨上がりの町を背景に近付いて来ている彰がいて、思わず後ずさった。

「な、何?」
驚いて聞くと、彰がすぐに足を止めた。

彰は悲しみの色を浮かべて言う。



「そんなに俺の事が嫌いか?」

その言葉を聞いて、すぐに頭の中に彰のお父さんとの約束が浮かび上がって来て、奥歯を食いしばった。

「…………嫌い……だよ……、って前……言ったじゃん」
また、こんな言葉を言わないといけないなんて、と、やるせない悲しみが膨らんでいく。

「だよな……でも俺は……」

切ない気な声が聞こえたと思うと、急に駆け寄って来た彰が、私を強く抱きしめた。

寄せられるように埋まった彰の胸から、異常な程に早い彰の心音が伝わって来る。

その音を聞くと、急に切なくなって、悲しくて眉が自然と寄った。

釣られるように私の心臓も早鐘を打ち始めて、行き場の無いこの思いは、さらに膨張して来るせいで、苦しくて悲鳴を上げた。



「ずっと、ずっと考えていた。
あっちに行ってからも、本当にこれでよかったのかって」

隙間もない程に抱きしめられているせいで、彰の胸からエコーが効いたような声が私の耳に直接入ってくる。
その声はどこか甘く感じた。

「嫌いで当然だよな。昔っから俺はお前に優しくしてこなかったし、無理やり体の関係まで持って。
なのにこんな風に思うなんて、自分勝手な気持ちだってのは分かってるけど、それでも……お前を諦めきれない」

「なんの……話をしてるの?」

ねぇ、彰。

なんか、まるで愛の告白みたいだよ。


また勘違いしちゃうよ。
そんな事言われると、私馬鹿犬だから、またシッポ振っちゃいそうになるよ。
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