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追憶
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しおりを挟むそして、ついでに酔いまで醒めて、さっきまであった浮遊感が無くなっていくのを感じた。
恐る恐る振り返ると……
「遥ちゃん」
そこには、私の腕を掴む和君が車から手を出していた。
「和君……」
ゾッとして勢いよく手を振り払う。
「どうしたの。そんな顔して。俺はただ雨だし送ってってあげようかと思っただけなのに」
まただ。
親切心みたいな風に言って、何もない感じで言っておきながら、そんな舐めるような目で見て……。
こういう人のこういう所が苦手で信用ならなくて嫌い。
お母さんの好きな人じゃなかったら、もっと邪険《じゃけん》にするのに。
「必要ないです。……送迎車があるので」
「そうなんだ。でも送迎って沢山の子を乗せていくんでしょ?こっちの方が早いよ」
そんな理由でお前の車なんかに乗るわけないでしょ!
って思っていると、和君はいきなり困った顔をして言ってくる。
「実は……君のお母さんについて、相談があるんだ」
「相……談?」
何、それ。
「君のお母さんが困った事になっていて、本当はその相談をしたくてここで待ってたんだ。こんな事君にしか相談できなくて……。
送っていく間だけでいいから聞いてくれないかな」
そんな事を言われても疑いの目しか向けれない。
『お母さんが困った事になっている』
正直、もし本当だったらって気にはなるけど……そんなの嘘に決まってる。
「私、この後仕事仲間と飲みなおしの予定があるので、無理です。
でももし本当にお母さんが困っていて相談したいんだったら、もっと明るい時間で、もっと人が沢山いる場所でお願いします」
そう言って頭を下げると「そうだよね。ごめんね。じゃあ連絡待ってるから」と言って手渡して来たのは、電話番号とメッセージアプリのIDが書かれた紙きれ。
「はい」
後でその辺のゴミ箱にでも捨てよう。
でも、本当だったら?
…………
……
「ここで大丈夫です」
「はい~」
送迎車を、近所の目が怖くて、いつものようにマンションから少し離れた所に止めてもらった。
「お疲れ様でした」
送迎の順番待ちの数名の女の子たちにも軽く挨拶してから送迎のバンから傘を手に降りる。
「お疲れ~」
スマホの光を顔面に浴びる女の子らから簡単な返事が来て、直後ドアが閉まった。
すぐにいなくなる送迎車を見送って、ふと夜の空を見上げる。
「雨……止んでる」
冬が近づいているからか、妙に空気が綺麗だ。
スマホを見ると……
「早っ、まだ11時前だ」
そんな事を呟きながら薄手のコートのポケットに手を突っ込んで、塀越しにマンションの入り口に足を向けるとーー
「嘘付いちゃ駄目でしょ」
そんな声が聞こえ、振り返り見た映像は、少し前の景色とデジャブした。
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