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追憶

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「一年経っても好きって気持ちが全く無くなってないのよ。
こんな状態で、もし会ったら何か起こってしまいそうで怖くて……明日から大学行けないよ……」
頭を抱え言うと不思議そうに覗かれる。

「何かって?」

「分からない。分からないから余計に怖い」
「結構前に聞いた気がするけど、どうして好きって気持ちに忠実になっちゃ駄目なんだっけ?」

「それは……えっと⋯⋯。言えないんだけど理由があって無理なんだけど」
そう言うと、あかり様は静かに眉を寄せた。

「その理由とやらの事、私は分かんないから的外れかもだけどさぁ。
でもさ、人生は一回きりだよ?
やり直しは効かないんだよ?
進むのも自分、進まないのを選ぶのも自分だけど……
どうせ一回しかない人生なら、自分の納得するように生きたらいいんじゃないかな?」

「納得、するように……?」

「うん。
何かがHARUの足に鎖をかけてるんだろうし、そんな簡単な話じゃないんだろうけど。
でも、ずっとHARU、今の状況に『納得』なんて行ってない顔してるよ。
まるで、指くわえて『我慢』させられているみたいだよ」


「私が、我慢……?」


その言葉は、ずっとピントがぼけて見えていた自分の状況が、言語化された事によって一気に端から端まで澄み渡って行くような感じがした。

「HARUは、いつもその彼のことを話す時『本当は飛び出して行きたい!』って顔してるしね」

確かに、その通り。
行けるなら今すぐにでも行きたい。

だからって、彰のお父さんとの約束を破れない。
……彰の為にも。

だから私、我慢してるんだ。

どうせこんなに長い間苦しむくらいなら、当たって砕けてしまえれば良かった。

こっぴどくフラれてたら幾分かはマシだったのに。

あの時、言っておけば⋯⋯


その時ーー

「あかり~、HARU~、みお~」
店長に名前を呼ばれて顔を上げる。

「あ、呼ばれたね。残念」
一瞬肩をすくめたあかりは、名刺とかが入っている仕事用の小さなバックを手にして立ち上がる。
「は~い」

「こんな天気の中、死ぬ物狂いで捕まえてきた新規だ。なんとしてでも指名と延長取ってこい。なんなら閉店まで取ってもいいんだからな」
ガッツポーズをしながらそう言った店長とのテンションの差を感じながら、重い腰を上げる。

すると横から視線を感じて見ると、あかりと目が合う。

「何?」


そう聞くと、私を気遣うようにニコッと笑って肩を抱いて「行こう」と言って来た。

「うん」



ボーイに連れられて店内を歩くと、いつもはこの時間帯だと半分は埋まってい席が、今はその新規だけの貸し切り状態だった。

そら、TOP3揃えて新規に付けるよね。
って心の中で呟くと見えて来た客。

客は3人。
パっと見た感じ、身なりは普通。
そんなにお金持ってる感じではないよう。

「失礼します~あかりで~す」
「初めましてぇ、澪です」
「初めまして、HARUです」
客席から低い歓声が上がる中、客の間に座って、切り替えきれないテンションで名刺を渡すと、目の前の客は固まった。

「あれぇ?遥ちゃんじゃない?」
よく見ると、なんとなく見覚えのある顔。

それは私が大の苦手で、一生会いたくないと切に願った、お母さんの不倫相手のかず君だった。
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