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親父の過去
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しおりを挟む俺たちは親友が貸してくれた別荘のある半無人島にやってきて、半月が経った。
完全に無人島ではないらしいのに、人っ子一人にも会わない自然しかないこの場所は、今の俺たちにはとって都合が良すぎた。
俺はここに来て初めて、生まれた時から背負ってきていた、『東十条家の跡取り』という大きすぎる重荷を初めて降ろすことが出来た。
本当は、『東十条家の跡取り』というのは俺の器では収まりきらない位に大きかったんだと思う。
だからきっと、この島に足を踏み入れた瞬間、無意識に流れてしまった涙は、重荷から解き放たれたようなきがしたからなのかもしれない。
『東十条家の跡取り』なんて重荷を外す為にここに来たわけじゃなかったのに。
「見て~綺麗な貝発見!」
そう言って、水着姿の上にパレオを付けている香織が無邪気に貝を手に走って来る。
夕陽色に染まった煌めく海と、香織。
「幸せだな……」
地獄耳なのか、ぽつりと呟いた言葉を聞き取った香織は俺の元まで来ると、
「私もすっごく幸せだよ!」
って歯を出して笑う。
こんなに自分の欲望に忠実に生きたことなんて、今までに一度だって無い。
いつも周りの目と、お父様の言葉が俺を縛り付けていたから。
「でも怖い……」
「え?」
幸せすぎて、逆にこの幸せの終わりがいつなのか、いきなり終わってしまうのでないかと、幸せであればあるほどに不安が襲う。
ただただ目の前の幸せを噛み締めておけばいいのに、今まで生きて来た中で、今が余りにも幸せで……
一秒でも長く香織と居い思いが強すぎるのか、手放しで喜べなかった。
「香織……俺、幸せすぎて怖いんだ」
「怖い?」
「なんで怖いの?」
「……いつか、この幸せが終わるんじゃないかって、不安になるんだ」
「大丈夫だよ。樹とシワシワになるまで一緒にいるって約束したでしょ?」
そう言って、前してくれたみたいに指切りをしてから軽いキスを落とされる。
「そうだよな」
口の堅い親友にも、しつこいくらいに口止めをした。
何かあった時だけ連絡していいと言った、俺の為に涙を流す世話役にも。
香織側は誰にも話さずに出てきている。両親でさえも。
バレる要素なんてきっと……ない。
俺って心配症だったのかな。
でもやっぱり、お父様は今どこまで調べてるのか、もうすぐこの幸せも取り上げられるんじゃないかと不安になってしまう。
香織はアメリカ人の父を持つハーフ。
だから香織は、幼いころから二か国語を話せるバイリンガルだ。
俺も海外によく行っているし、英才教育も受けて来たから英語、フランス語辺りなら余裕で話せる。
何度も迷ったけど、やっぱり香織にパスポートでも取らせて海外逃亡の方が良かったんじゃないか?
そしたらこんなに不安にはならなかったんじゃないか?
親にも内緒で香織にパスポートを取らせるというのが難しい気がして選択肢から外していたが、それは間違ってたんじゃないか?
明日にでも計画を練り直すか。
同じ場所に長期とどまるのは良くないだろうし……
やっぱり嫌な予感がするから。
少し焼けた香織の手を引っ張って、細い腰を抱き寄せる。
「好きだよ」
絶対手放さない。
俺だけの香織。
そう言うと、目を細めて歯を見せる。
「知ってるよ」
そしてまた俺にキスを落としてくる。
今度は愛を確かめるような深いキスを。
俺が、ずっと抱いていた不安はーー
翌日、見事に的中した。
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