上 下
254 / 337
親父の過去

17

しおりを挟む

俺たちは親友が貸してくれた別荘のある半無人島にやってきて、半月が経った。

完全に無人島ではないらしいのに、人っ子一人にも会わない自然しかないこの場所は、今の俺たちにはとって都合が良すぎた。

俺はここに来て初めて、生まれた時から背負ってきていた、『東十条家の跡取り』という大きすぎる重荷を初めて降ろすことが出来た。

本当は、『東十条家の跡取り』というのは俺のうつわでは収まりきらない位に大きかったんだと思う。

だからきっと、この島に足を踏み入れた瞬間、無意識に流れてしまった涙は、重荷から解き放たれたようなきがしたからなのかもしれない。
『東十条家の跡取り』なんて重荷を外す為にここに来たわけじゃなかったのに。


「見て~綺麗な貝発見!」
そう言って、水着姿の上にパレオを付けている香織が無邪気に貝を手に走って来る。

夕陽色に染まった煌めく海と、香織。

「幸せだな……」
地獄耳なのか、ぽつりと呟いた言葉を聞き取った香織は俺の元まで来ると、
「私もすっごく幸せだよ!」
って歯を出して笑う。


こんなに自分の欲望に忠実に生きたことなんて、今までに一度だって無い。
いつも周りの目と、お父様の言葉が俺を縛り付けていたから。


「でも怖い……」


「え?」

幸せすぎて、逆にこの幸せの終わりがいつなのか、いきなり終わってしまうのでないかと、幸せであればあるほどに不安が襲う。

ただただ目の前の幸せを噛み締めておけばいいのに、今まで生きて来た中で、今が余りにも幸せで……
一秒でも長く香織と居い思いが強すぎるのか、手放しで喜べなかった。


「香織……俺、幸せすぎて怖いんだ」
「怖い?」

「なんで怖いの?」
「……いつか、この幸せが終わるんじゃないかって、不安になるんだ」

「大丈夫だよ。樹とシワシワになるまで一緒にいるって約束したでしょ?」
そう言って、前してくれたみたいに指切りをしてから軽いキスを落とされる。

「そうだよな」
口の堅い親友にも、しつこいくらいに口止めをした。
何かあった時だけ連絡していいと言った、俺の為に涙を流す世話役にも。

香織側は誰にも話さずに出てきている。両親でさえも。

バレる要素なんてきっと……ない。

俺って心配症だったのかな。

でもやっぱり、お父様は今どこまで調べてるのか、もうすぐこの幸せも取り上げられるんじゃないかと不安になってしまう。


香織はアメリカ人の父を持つハーフ。
だから香織は、幼いころから二か国語を話せるバイリンガルだ。

俺も海外によく行っているし、英才教育も受けて来たから英語、フランス語辺りなら余裕で話せる。

何度も迷ったけど、やっぱり香織にパスポートでも取らせて海外逃亡の方が良かったんじゃないか?
そしたらこんなに不安にはならなかったんじゃないか?

親にも内緒で香織にパスポートを取らせるというのが難しい気がして選択肢から外していたが、それは間違ってたんじゃないか?

明日にでも計画を練り直すか。

同じ場所に長期とどまるのは良くないだろうし……
やっぱり嫌な予感がするから。


少し焼けた香織の手を引っ張って、細い腰を抱き寄せる。
「好きだよ」

絶対手放さない。
俺だけの香織。

そう言うと、目を細めて歯を見せる。
「知ってるよ」

そしてまた俺にキスを落としてくる。
今度は愛を確かめるような深いキスを。





俺が、ずっと抱いていた不安はーー
翌日、見事に的中した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

義兄の執愛

真木
恋愛
陽花は姉の結婚と引き換えに、義兄に囲われることになる。 教え込むように執拗に抱き、甘く愛をささやく義兄に、陽花の心は砕けていき……。 悪の華のような義兄×中性的な義妹の歪んだ愛。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

処理中です...