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親父の過去
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するとセーラー服を着た、息を飲むほど綺麗な女の子が俺を覗き込んでいた。
その瞬間、雷に打たれたような、体が暑くなるような、今までに感じたことの無い感覚が全身を駆け巡った。
自分の周りには居ない、明るい栗色の髪色。
腰まである綺麗なウェーブがかったロングヘア。
まつ毛も長くて目鼻立ちがハッキリしていて、まるでハーフのようだった。
「あ⋯⋯」
その美貌にやられて、自分の口から思わず情けない声が出た。
「何か困ってそうだったんだけど、違った?」
学校の奴らはみんな俺を敬うように敬語だから、俺にこんなタメ口をきく奴なんて生まれて初めてだった。
なのに、全然嫌な気がしない。
それどころか⋯⋯
「あ⋯⋯俺⋯⋯」
そう言うと「ん?」と言いながら覗き込まれて、顔の近さに一気に血管の血が沸騰するのを感じ、思わず手にしていた学校指定の革の鞄を抱きしめた。
赤面してるのなんて鏡が無くても分かった。
こんなダサい俺、もし学校の奴らに見られたらメンツが丸つぶれだ。
「え?何?小さくて聞こえないよ」
「で、電車の乗り方が分からなくて!!」
俺の言葉を聞いた目の前の綺麗な女の子は、目をパチクリさせて数秒固まったと思うと腹を抱えて笑いだした。
大袈裟だと言われそうだが、その笑顔はまるで天使か女神に見えた。
「何が、おかしいんだ」
名乗ってはいないが、俺は皆が知る東十条家の長男、東十条樹なのに。
電車の乗り方なんて分からなくても、別におかしい事では無い。
普段こんな風でに笑われたら、絶対に怒り散らかして何かしら制裁を与えていただろう。
でも、この女の子にはコレっぽっちも怒る気にはならない。
「はー、おかしかった~。じゃあ私が電車の乗り方教えてあげるよ」
そう言うと、笑いながら目尻に溜まった涙を拭って突然俺の手を握った。
「ほら、こっちだよ」
その瞬間肩が跳ね上がって、握られた手に全神経が集中してしまった。
そして、俺とその子の周りだけがピンク色に染まった気がした。
ボタンが沢山ある機械が並ぶ所に連れてこられた俺は問いかけられる。
「どこまで行くの?」
「えっ、あ⋯⋯黒金台まで」
「え、もしかして黒金台に住んでるの?クロガネーゼってやつ?」
「ああ、そうだよ」
「すごー。ちょーお金持ちじゃん!
そんなお金持ちと喋ったのなんて初めて」
終始ニコニコしていて、笑顔が可愛くて調子が狂う。
16の俺は、女も何人か食った事だってある。
なのに、この女の子の前だと、まるで女の免疫を一気に剥がされたかのようになってしまう。
その綺麗な目と目が合うだけで、胸が掴まれるかのような感覚がした。
女の子はスっと上を見上げる。
何を見ているのかと思い視線を辿ると、上にある都内の線路図を眺めていた。
俺はそんな横顔を盗み見るように眺める。
「黒金台、黒金台⋯⋯あっ、あった!470円だよ」
そう言われて一瞬キョトンとする。
普段お金を払った事がないから。
「ここに470円入れて、ここを押すんだよ」
1万円札とカードしか持ってなかった俺は、初めて両替というのをし、生まれて初めて自分で切符を買うことが出来た。
でも⋯⋯
「これ、他の人が使ってるのと違う気がするけど。小さくない?」
機械から出てきた小さな紙切れを持って、他の学生が手にしている券を指さすと
「ああ、あれは定期だよ」
と言う。
「定期?」
「毎日学校とか会社に通ったりする人用のお得な切符だね」
「ふぅん、そうなんだ」
こんなにも毎日電車に乗る奴らがいるなんて。
送迎もない日常を過ごしてる奴らは大変だな。俺はそんなのは無理だし絶対ごめんだ。
「本当に電車初めてなんだね」
「いや、昔、世話役と乗った事はあるんだけど」
「世話役?へぇ、住む世界違いすぎぃ。あ!電車来るみたいだよ!途中まで一緒だから行こう」
そう言って、また当たり前のように手を握って来る。
「あ、ああ」
繋がれた手を見て、またその手に全神経が集中して、体温まで上昇して、俺を引っ張る後ろ姿を見た。
まるで、その姿をこの目に焼き付けるように。
⋯⋯⋯⋯
⋯⋯
「おい、樹、聞いているのか」
そう声を掛けられて気付くと、目の前には怖い顔をしたお父様がいた。
その背景には大正時代の面影を残す、日本でも由緒ある和と洋が入りまじる料亭が映り込む。
そうだった。
つい今日会ったばかりの女の子の事を思い出してぼんやりしていたけど、今は婚約者との初顔合わせ中だった。
「は、はい!お父様、勿論です」
背を正してハッキリとした声で返し、小さく唾を飲む。
本当は聞いていなかったけど、そんな事をお父様にバレたらどんな仕打ちが待っているか分からない。
「樹はどうだ?異論はないな」
異論はない?なんの話だろう。
でももしそんな物があったとしても、お父様に意見出来るわけが無いけど。
「はい」
「そうか。じゃあ綾小路美玲さんとはお前が20歳になったら結婚という事で決まりだ」
⋯⋯え。
その瞬間、雷に打たれたような、体が暑くなるような、今までに感じたことの無い感覚が全身を駆け巡った。
自分の周りには居ない、明るい栗色の髪色。
腰まである綺麗なウェーブがかったロングヘア。
まつ毛も長くて目鼻立ちがハッキリしていて、まるでハーフのようだった。
「あ⋯⋯」
その美貌にやられて、自分の口から思わず情けない声が出た。
「何か困ってそうだったんだけど、違った?」
学校の奴らはみんな俺を敬うように敬語だから、俺にこんなタメ口をきく奴なんて生まれて初めてだった。
なのに、全然嫌な気がしない。
それどころか⋯⋯
「あ⋯⋯俺⋯⋯」
そう言うと「ん?」と言いながら覗き込まれて、顔の近さに一気に血管の血が沸騰するのを感じ、思わず手にしていた学校指定の革の鞄を抱きしめた。
赤面してるのなんて鏡が無くても分かった。
こんなダサい俺、もし学校の奴らに見られたらメンツが丸つぶれだ。
「え?何?小さくて聞こえないよ」
「で、電車の乗り方が分からなくて!!」
俺の言葉を聞いた目の前の綺麗な女の子は、目をパチクリさせて数秒固まったと思うと腹を抱えて笑いだした。
大袈裟だと言われそうだが、その笑顔はまるで天使か女神に見えた。
「何が、おかしいんだ」
名乗ってはいないが、俺は皆が知る東十条家の長男、東十条樹なのに。
電車の乗り方なんて分からなくても、別におかしい事では無い。
普段こんな風でに笑われたら、絶対に怒り散らかして何かしら制裁を与えていただろう。
でも、この女の子にはコレっぽっちも怒る気にはならない。
「はー、おかしかった~。じゃあ私が電車の乗り方教えてあげるよ」
そう言うと、笑いながら目尻に溜まった涙を拭って突然俺の手を握った。
「ほら、こっちだよ」
その瞬間肩が跳ね上がって、握られた手に全神経が集中してしまった。
そして、俺とその子の周りだけがピンク色に染まった気がした。
ボタンが沢山ある機械が並ぶ所に連れてこられた俺は問いかけられる。
「どこまで行くの?」
「えっ、あ⋯⋯黒金台まで」
「え、もしかして黒金台に住んでるの?クロガネーゼってやつ?」
「ああ、そうだよ」
「すごー。ちょーお金持ちじゃん!
そんなお金持ちと喋ったのなんて初めて」
終始ニコニコしていて、笑顔が可愛くて調子が狂う。
16の俺は、女も何人か食った事だってある。
なのに、この女の子の前だと、まるで女の免疫を一気に剥がされたかのようになってしまう。
その綺麗な目と目が合うだけで、胸が掴まれるかのような感覚がした。
女の子はスっと上を見上げる。
何を見ているのかと思い視線を辿ると、上にある都内の線路図を眺めていた。
俺はそんな横顔を盗み見るように眺める。
「黒金台、黒金台⋯⋯あっ、あった!470円だよ」
そう言われて一瞬キョトンとする。
普段お金を払った事がないから。
「ここに470円入れて、ここを押すんだよ」
1万円札とカードしか持ってなかった俺は、初めて両替というのをし、生まれて初めて自分で切符を買うことが出来た。
でも⋯⋯
「これ、他の人が使ってるのと違う気がするけど。小さくない?」
機械から出てきた小さな紙切れを持って、他の学生が手にしている券を指さすと
「ああ、あれは定期だよ」
と言う。
「定期?」
「毎日学校とか会社に通ったりする人用のお得な切符だね」
「ふぅん、そうなんだ」
こんなにも毎日電車に乗る奴らがいるなんて。
送迎もない日常を過ごしてる奴らは大変だな。俺はそんなのは無理だし絶対ごめんだ。
「本当に電車初めてなんだね」
「いや、昔、世話役と乗った事はあるんだけど」
「世話役?へぇ、住む世界違いすぎぃ。あ!電車来るみたいだよ!途中まで一緒だから行こう」
そう言って、また当たり前のように手を握って来る。
「あ、ああ」
繋がれた手を見て、またその手に全神経が集中して、体温まで上昇して、俺を引っ張る後ろ姿を見た。
まるで、その姿をこの目に焼き付けるように。
⋯⋯⋯⋯
⋯⋯
「おい、樹、聞いているのか」
そう声を掛けられて気付くと、目の前には怖い顔をしたお父様がいた。
その背景には大正時代の面影を残す、日本でも由緒ある和と洋が入りまじる料亭が映り込む。
そうだった。
つい今日会ったばかりの女の子の事を思い出してぼんやりしていたけど、今は婚約者との初顔合わせ中だった。
「は、はい!お父様、勿論です」
背を正してハッキリとした声で返し、小さく唾を飲む。
本当は聞いていなかったけど、そんな事をお父様にバレたらどんな仕打ちが待っているか分からない。
「樹はどうだ?異論はないな」
異論はない?なんの話だろう。
でももしそんな物があったとしても、お父様に意見出来るわけが無いけど。
「はい」
「そうか。じゃあ綾小路美玲さんとはお前が20歳になったら結婚という事で決まりだ」
⋯⋯え。
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