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親父の過去
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しおりを挟む駆け落ち?
は?
女遊び好きな親父が?
あまりの衝撃にみぞおちを打たれたように声も立てれず、理解に追いつかない頭がグワングワンと揺れる。
「⋯⋯続けて大丈夫かい?」
心配そうな顔が覗く。
「あ……ああ、大丈夫だ」
家の近くで何度か親父といるのを目にした女は皆若くて……
違う女だったと思う。
女遊びばっかして母さんをほったらかしにして、だから母さんも親父なんてどうでもよくなって……。
なのに、駆け落ちしていた?
そんなの、今の親父と全然繋がらねぇんだけど。
「どこから話そうかねぇ~」
こめかみを悩ましげに指でトントンしていたのに、いきなりパッと目が見開いて手をポンッと叩いた。
「ああ……あの辺あたりからが良さそうだね。
旦那様が高校生の頃、迎えの車が玉突き事故で迎えに行けなくなった日があってね⋯⋯」
⋯⋯⋯⋯
⋯⋯
「え?迎えに来れない?
でも今夜は婚約者との初顔合わせだろ?
初日に遅刻とか勘弁してくれよ。
何としてでも今すぐ迎えに来い⋯⋯え?無理だって?タクシー?⋯⋯はぁ!?もういい!!」
職員室で借りた電話を勢いよく切って、青くなった先生達を睨んで職員室を後にする。
「この俺にタクシーを拾えだ?
あの世話役は今日限りでクビ確定だな」
口を歪めてそんな独り言を呟き、名門校の門をくぐる。
「まぁ⋯⋯でも、確かにそれしか方法は無いんだろうけど。
駅は近いけど電車なんて庶民が乗る乗り物、さすがに俺が乗るわけにはいかないしな。
タクシーの方がマシか」
大通りに出ると、さっそくタクシーらしき車が向かって来るのが見えた。
だからポケットに手を突っ込みながら運転手に目線を送った。
なのに何故か止まることなく、当たり前のように前を通り過ぎ行って行った。
その事に驚き、目を点にする。
「は?アイツ目ぇ付いてねぇのかよ」
舌打ちをして落ちていた石ころを蹴飛ばす。
「この俺が居るのに、止まらないなんて無礼にも程がある」
結局、その次も、その次も何故かタクシーは止まらない。
「人を運ぶのが仕事だろ!?ちゃんと仕事しろよ!」
ついに苛立って、今度はタクシーの前に立ち塞がろうと道路に出ると、慌てた顔をした運転手が俺を上手く交してそのまま走り去って行った。
「おい⋯⋯ここまでしても俺を乗せない気か?運転するしか脳が無い癖に俺をコケにしやがって⋯⋯よし、東京花丸タクシーだな。覚えとけよ。俺を侮辱した事、後悔させて⋯⋯うわ!」
車道で立ち尽くす俺に、思いっきりクラクションを鳴らしたのはショボイ軽自動車。
見ると中には貧相な中年男性の運転手。
「おい。お前、誰にクラクション鳴らしてんだよ」
苛立っていた俺は、小さなボンネットに毎日ピカピカに磨かれて光っている革靴を乗せ、思いっきりガンを付けた。
すると案の定ビビって逃げて行った。
「馬鹿が」
吐き捨てるように言ってからふと気になって見たダイヤの光る腕時計の針は、もう16時を過ぎた事を示していた。
「帰宅にこれ以上時間がかかると、お父様に何を言われるか分からないな」
お父様は本当に怖い人。
言う事を一つでも守らないと俺に体罰を与えて来るのは日常茶飯事。
今回の婚約だって、本当は乗り気では無い。
でも、お父様の言う事は絶対的だから⋯⋯。
とにかく、今は一刻も早く帰らないと。
その時、遠くで電車の音が聞こえた。
音のした方を見ると、そこには駅らしきものが見えた。
普段なら電車なんて選択肢を選ぶなんて有り得ない。
あんな庶民しか乗らない乗り物。
しかも、小さな箱にすしずめ状態になると聞いた事がある。
庶民が俺に近付く事さえ許せないのに、すしずめ状態となるなんて論外だ。
でも今は帰宅方法なんて選んでる場合では無い。
そんな事を思いながら渋々駅までは来たものの⋯⋯
乗り方が全く分からない!!
暫く様子を見ていると、学生服を来た人達は何やらバックに付いてるキーホルダーみたいなものから文字の書かれたカードのようなものを機械に通して行く。
そのカードで入場出来るのは分かったけど、俺はあんな物を持っていない。
それに、その券をどう買っていいのか分からないし、なんと聞けば赤っ恥をかかないのか分からず、聞くにも聞けない。
学校でも、家でも、父さんの居ない時は歯向かうものも居なく、自分が天下だった。
なのに、今、俺はどうしていいのか分からず、沢山の学生が行き交う改札手前で立ち尽くして、ついに視線を落とした。
その時ーー
「どうしたの?」
そう声を掛けられて顔を上げる。
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