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涙の決断

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気付いたら頭上の手が緩んで手が解放されていて、酷く低い声が落ちてきた気がした。

「そうか……今まで本当に悪かったな」

その言葉を聞いた瞬間、息の仕方を忘れたように息苦しくなって、目の前が白くなって背中の壁に沿うように崩れ落ちた。



…………

……

「え?遥こんな所で何してんの?」
声をかけられて、ぼやっとした視界で見上げる。
頭が酷く重い。

驚いた顔をしたお母さんを見た後、自分の状況を確認すると脱衣所で座り込んでいた。

「あれ……」
と呟くと、彰との出来事をが頭を駆け巡って自分の顔が歪めた。

辺りをザッと見渡しても彰の姿はなく、弟の服は蓋の閉まった洗濯機の上に置いてあるまま。

いつの間にか薄暗くなっているこの部屋は、ベランダから漏れる白い街灯に照らされ淡く縁取って見えていた。



もう夜なんだ。
もう、いるわけない。
 
その事に頭をハンマーで殴られたような位にショックを受けて、脱衣所の洗濯機の下に視線を落とすと、お母さんが驚いた声を出した。

「え!?まさか出たの?」
って言うお母さんの言葉にハテナマークが浮かぶ。

「え?」
「出たんでしょ?そして逃がしたのね!?」
そう言われてやっと、言葉にもしたくないアイツが出たと勘違いされていると分かって適当な嘘をつく。
ただ、一人になりたくて。

「…………暗くてよく見えなかったんだけど」
私の言葉を聞いたお母さんの顔は、暗い中でも分かる位に一気に真っ青になった。

「この前取り逃がした奴だわーー!!待ってなさい!!」
って叫びながら殺虫剤を取りに消えるお母さん。

少しだけ嘘をついた罪悪感を抱えながら、顔だけ廊下に出して、私が掛けてあげたはかまを探す。

予想通り、やっぱりそこには袴の姿は無く、直後に酷い寂しさが襲って、また息苦しくなった。

後頭部を壁に擦りつける。
「はぁ……。これでいい。よくやった自分」

そう呟いて自分の胸倉むなぐらを思いっきり掴んだ。
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