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涙の決断

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「なぁ、そろそろ答えろよ……この口でさ」
と言うと、口の中に指が突っ込まれて驚き目を見開く。
「んんっ」

そのままグッとほほ側に口角を引っ張られる感覚がしたと思うと、自然と口が開いてしまった。

「ほら、言えよ。遥?」
感情の読めない美しい顔が私を覗き込む。


きっと、どうかしてるんだと思う。


こんな追い詰められている状況に若干じゃっかん怯みながらも、心の奥底では嬉しく思ってしまう自分がいるから。

頭上の手なんて、きっと大した力じゃない。きっとこの指だって……。
なのに私は振りほどく事もなく、大人しく従いたくなってしまう。

……好きだから。
こんなの駄目なのに。

ああ、嫌だ。

もう、思考がグチャグチャになる。


「泣いてんの?」
微かに目が大きくなった彰が、そんな事を言うと口内の指をスっと抜いた。



そう言われて気づくと、いつの間にか見えている視界が歪んでちて、鼻の奥がじーと熱くなっていた。

「ち、違う⋯⋯」
とっさに顔を隠そうとすると、手が動かなくて彰に拘束されていることを思い出す。

その時、思った以上に強い力で拘束されている事に驚いた。
まさか本当に逃げるとでも思っているだんだろうか。
自分の家なんだし、距離は取れても逃げ場なんて無いのに。


気を抜くと泣き崩れてしまうな私は、涙を飲むように何度かゆっくりと息を吐く。

「な、泣いてないし。それよりこの手、早く避けてよ」
「無理。離して欲しかったら、さっさと答えろ」
「なんでよ。体も拭かないと、そんな濡れたまんまだとせっかく温まったのに風邪引くでしょ。それに早く服着てよ」
目のやり場だって困るし。

「そんな事どうでもいい」
冷ややかに言われ、横を向いた私はすぐにあごを掴んで向き戻された。

「ちゃんと俺の目を見ろ」
真剣な眼差しに串刺しにされてゴクリと唾を飲む。

その目を見ると、この彰から逃げるなんて至難しなんわざだと悟《さと》らされた。

もう、ハッキリさせるしか無いんだろう。
逃げてばっかだと駄目だ。
さすがに、もう覚悟を決めないと……。
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