犬、やめました。【コミカライズ企画進行中作品】

涙の決断

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普段しないような顔に髪があまりかからない髪型のせいか、いつも以上にその端正たんせいな顔がよく見える。
でも、慣れないからか違和感が凄い。

だからかな。
未だにこの景色に全然現実味がない。


「お前、今キヨコババアにチクろうとしてただろ」
そう言う彰の手には、何故か私のギラギラ光るスマホがあって、しかも勝手に操作をしている様子。

「え？あれ？」
驚いてやっとフリーズから解放された私は、耳元に当てていたはずの自分のスマホを確認する。

「ん」
その時突き返して来たのは、どっからどう見ても自分のスマホ。
しかも何故かご丁寧に電源まで切られている。

それを見た瞬間、目の前のスマホを勢いよく奪い返した。
「ちょっと、なんで勝手に切ったのよ！まだキヨコさんと話している最中だったのに！」

自分でもビックリするほど、思いのほか口だけならまだまだ大口を叩けた。
でも体は心と連動して、無意識に一歩、二歩と後ずさる。


「そんな事より、俺に言うことあるんじゃないの？」
袴姿の彰は腰に手を当て、不機嫌そうに首を傾げる。



その鋭い目を更に細めて私を見据みすえてくるせいで、気分はまるで完全に捕らえられた子犬のよう。

「い、言うこと？何それ」と聞くと「分かんねぇの？馬鹿か」って眉をひそめて私が後ずさった分だけ……
いや、それ以上に距離を詰めて来る。


ヤバイ。
これ以上は絶対ヤバイ！

こんなの絶対無理。
せめて心の準備がないと。
いや⋯⋯そんなのいくつあっても、きっと足りない。


焦りが膨らんいくのと同じくらいに後ずさる足が速まる。

「なんでこっち来んの？」
「お前が下がってくからだろ」
「彰がっ、先に近付いてくるから⋯⋯あっ」
すると何かにつまずいて後ろに重心が持っていかれた。

グラついてグルリと回る空を仰いだはずなのに、引っ張られる感覚と同時にその景色がピタリと止まった。

首だけ起こすと、自分の手首が彰の大きな手に掴まれているのが映る。


「っぶねぇだろ。何してんだよ」
その瞬間、頭のてっぺんから足の先まで一気に温度が上昇するを感じた。