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涙の決断

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逃げたら追いかけたくなるとか言う、アレ!?

って、彰はそんな単純な事しないか。


っていうか、正式婚約今週だよね。

「うっ」
あー、胸が痛み過ぎて心臓が潰れそう。

彰の声を聞くだけで、本当にどうにかなってしまいそうなくらいなのに。
いつまでこんな事を続けないといけないんだろう。


ユイユイが言うように、こんなのが続く位なら、彰の為にも会って話したほうがいい。
そんなのは私も重々分かってはいるけど……

約束だってあるし、それに会ったら、彰を目の前にしたら……
ずっと押さえつけている自分が暴走しちゃいそうで


……怖い。




日曜日――
天気は快晴。

最近よく眠れないのもあって、せっかくの休日なのに午前中に目が覚めた。

朝日を浴びる休日なんて超久しぶりだ。
えっと、いつぶりだっけな。

……ああ。
あのホテルでぶり……かな。

思い出して一気に気分が落ち込むと、私を呼ぶ声が聞こえた。

「遥ぁ~」
「なにー?」
お母さんの声にそう答えたけど、その後は何を言ってるのか良く聞こえなくて、自分の部屋の窓を閉めてリビングに足を向けた。

「遥、聞いてた?」
リビングに入るなり、ツンとした臭いが鼻をついたと思ったら、お母さんがマニキュアを付けていた。




「ううん。全然聞こえなかったから来たよ」

「そう。今日、お父さんのシャツをクリーニング屋に取りに行って欲しいの。じゃないと明日からお父さん、仕事行けなくなっちゃうから」
綺麗なピンク色になった爪先に、フーフーと息を吹きかけて言うお母さんに文句を垂れる。

「えー。また?お母さん行ってきてよ」
お母さんはアイロンが極度に下手で、何度も焦がしたり、無駄にシワを増やしたりして何枚もシャツを駄目にしてきた。
だから夜の仕事するまでは私がアイロンかけをしていたけど、今では私が家に入れるお金から全部クリーニング屋に頼んでいる。

「おかあクンは無理よ、今から出かけるしぃ。夕方には帰ってくるけどそれからだと色々忙しいしぃ」
色々って何?どうせ夜ご飯も作らず買ってきたお惣菜なのに。
「分かったよ。じゃあ取りに行くよ」

「クリーニング屋のカードはキッチンに置いてるから……あ!そうそう!
大事な事を言い忘れてたわ」
「何?」


「今回は川崎クリーニングで出したのよ。だからそっちに取りに行って」

「げっ!めちゃ遠いじゃん!」
「遥の好きな、あの公園のショートカットを使ったらすぐじゃない。
じゃ、お母クンは出かけてくるから、シャツよろしくねー。夕飯までには帰ってくるから」

じゃあ帰りに自分で取りに行けばいいのに。
とは何故か言えずに、着飾ったお母さんが家を出て行って1人になった。

「はーー……お昼ご飯買いがてらに、先に行くか」
ポツリと呟いてキッチンの上に置いてあるクリーニング屋のカードを手にした。


…………

……

今更ながらの紹介になるけど、私が今住んでいる所は各駅しか止まらない。
都会か田舎かと言われれば、どちらかと言えば田舎に当てはまるような場所。

今歩いているこの公園は、朝夕問わずウォーキングやランニングをする人や、犬の散歩や子供が走り回るような、この街のシンボルともいえる大型公園だ。

春になれば桜並木、秋になれば紅葉で人が押寄せる。

行った事はないけど、政治家や芸能人御用達の凄い料亭なんかもこの公園沿いにあったりする。



決して便利では無いけど、この公園があるこの街がわりと気に入っている。

空から凄い音が聞こえて一瞬空を見上げる。
そこには雲一つない真っ青な空に、飛行機の後に白い筋がスッと通っている。
「それにしてもいい天気」

冬なのに太陽に当たってるとポカポカ。
心の中は悲しみに溢れているのに、こうやって散歩していると気がまぎれるというか、幾分いくぶんか気分が楽になる。



その時、スマホが鳴った。

画面を見ると、彰の母親代わりだった河原キヨコさんの名前が出ていた。
「え……、キヨコさん?」

退院後から連絡を取っていなかったキヨコさん。
しかも電話は初めてで、少し緊張した面持おももちで通話ボタンを押す。
すると、電話に出るのを待ち構えていたようにキヨコさんが話し出した。

「遥ちゃん、河原キヨコだけど、分かるかい?」
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