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涙の決断

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「痛たた……」
尻もちをついてお尻をさする私の頭上から、野太い声が落ちる。
「旦那様に手荒な真似はご遠慮ください」と。

声元を見上げると、すぐ横でムキムキマッチョが立っていて、無表情な目で私を見下ろしていた。

でもそれも一瞬だけ。
すぐに背を向けてリムジンのドアを閉めると、運転席に乗り込んだ。

そんな様子に、ハッとしてガラス越しに見えた横顔に叫ぶ。



「待ってください!訂正してください!
夜の店で働く人たちは阿婆擦れなんかじゃないって!」
私の声は届かないのか、彰のお父さんは見向きもしない。

「どんな気持ちで働いているかも……何も知らないくせに!頑張ってる人達に謝ってください!」

窓が半分開いている事に気付いて、聞こえているんだと分かって、何も言わない事に余計に悔しくなった。

地面にある手をグッと握りしめると走り出すリムジン。
「待っ……あ、れ?」

追いかけようとした途端、何故か足に全く力が入らない事に気付いた。


よく見ると自分の手も足も小刻みに震えていて、その手をもう一つの震える手で握った。

そうしているうちに、あっという間にリムジンは目の前にある世界でも有数の大企業の敷地内に消えて行った。

…………

……

「遥来てる?」

終了のチャイムが鳴るなり教室に来たのは彰。


「あっ、東十条さん。来てないですよ」
ユイユイが答える。

「……またか。あいつ、こんなんで卒業できるのかよ」
「どうなんですかね。それより、遥になんの用ですか?」
「あ、いや…………」
気まずそうな声が漏れる。

「用が無いなら次の授業があるので、私行きますよ」
トントンっと教科書を揃える音が聞こえると、引き止める彰の声が聞こえた。

「遥と、時々でも連絡取ってるんだよな?」
「はい、取ってますよ」
「遥…………元気か?」
「…………ええ、まぁ、ある程度は」

「そうか。悪いな、引き止めて」
「いいえ」

彰らしき靴音が遠くなって完全に消えたタイミングで、ギギっと椅子が引かれて前が明るくなった。
そしてそこにヒョコッとユイユイの顔が覗く。

「もういいよ、遥!」


「あ、危なかった……」
机の下でユイユイの足と机に挟まれて、ずっと変なポーズで隠れていた私は、
やっと机の下からから解放されて教室の天井に伸びをする。

「別にいいけどさぁー。でも、いつまでこんな事続ける気ぃ?これで何度目よ」
ユイユイは腕組をしながら言う。

「うん、こんなんじゃ駄目だよね。ユイユイに迷惑ばっかかけてごめん」
「私はホントいいんだけど。でも事情とか知らないけど、なんか東十条さんがかわいそうに見えてくるんだけど。ちゃんと話し合うとかは駄目なの?」

もう、彰のお父さんに会わないって約束したから……なんて言えない。


彰はどうして、ずっと私を追いかけるような真似をするんだろう。

私、ただの玩具オモチャで犬なだけなのに……。

まさか……
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