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涙の決断

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「う……そ……」

彰にキスをした側の女性は、驚くほどの美人で品もあり、何も聞いていなくても彰と同じ世界に生きる人なんだとにじみ出すオーラで分かった。

この人、絶対に婚約者さんだ。


……なんだ……。
彰のお父さんが言っていた事、本当だったんじゃん。

こんな……
こんな綺麗な婚約者さんと結婚秒読みなのに。

何が『彰にとって私は少しでも特別』よ……。
……一人で勝手に盛り上がっちゃって、ほんと馬鹿みたい。
彰は全然その気なんて無かったのに。



「遥っ!!」
走り出すと背後から彰の声が響く。
直後、閉まっていた鉄の門がガシャンと鳴った。

「なんで開かねぇんだよ!」
怒り口調の彰の後に続くのは、小鳥のようにか細く綺麗な声。
「彰さん。セキュリティがかかったままですよ」
声まで綺麗なのが憎らしい。

婚約者さんの声も聞きたくないし、二人が話している所なんてもっと聞きたくない!!


「お願いです!すぐ出てください!」
さっきまで乗っていた停車中のタクシーに勝手に乗り込んで言った。


「え!?あ、さっきのお客さん。今度はどちらまでですか?」
驚いたように振り返るタクシー運転手。

「いいから!どこでもいいからすぐに出して!!お願い!!」

そう叫ぶとすぐに動き出すタクシー。
恐る恐る振り返ると、やっとセキュリティを解除出来たのか、門を開ける彰が滲む視界に映った。

「お客さん、大丈夫ですか?」
そんな運転手からの返事には答えれず、代わりに鼻をすすった。


…………

……


婚約者さん……悔しい程に綺麗だった。

私と違って、品もあって、清潔感もあって……彰と肩を並べても釣り合う人間に見えた。


しかもお父さんからの呼び出しだって言ってたけど、本当は婚約者さんからの呼び出しだったなんて……。



彰は意地悪で性悪でも、嘘なんてつかない人間だと思ってたのに……
情に絆され過ぎたせいか、完全に騙されてしまった。

ほんと、勉強は出来てもこういうのは全く分からなくて嫌になる。


「こんな事なら……あのお金、受け取っておけば良かったのかな……?」

……ううん。

きっと、あれは受け取らなくて良かったんだと思う。

膝を抱いてギュッと抱き寄せ、項垂うなたれるように膝に頭を付けると、夕日に染まり始めたこの自分の部屋に携帯音が鳴り響いた。

横に置いていたバックからスマホを取り出すと、その画面には彰の名前が表示されていた。
『彰』という文字だけで、心臓が飛び跳ねて、胸が苦しなった。
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