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涙の決断

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住所……
名前……
電話番号。

それを書くだけで得られる五千万円。
それと同時に失う、彰との関係。


これを書いたら、
もう……彰とは……


『言えよ。今のお前は、なんでもないって顔してねぇよ』
真剣なまなざしを向けてくる、目線の高さが同じ、幼い頃の彰。

『俺が作っちゃ悪いのかよ』
鬱陶しそうにパンケーキが乗るお皿を手にする彰。

『ふぅん。悪くないんじゃねぇの?』
ドレス姿の私を見て目を細める彰。

『お前、こういう所が好きそうだったから』
夜景を背景のドレスコードの彰。

『遥……お前が、好きだ……』
……夢の中で見た、彰……。


彰……。




その瞬間、私は勢い良くペンを机に置いた。
「すみません……」

そして思い立ったように席を立つと、私を見る彰のお父さんが静かに片眉を上げた。

そんな彰のお父さんに目掛けて、大きな声で私は宣言した。

「私は…………彰さんと別れません!!」

部屋の隅まで声を響かせた私は、そのまま誓約書を手にして紙をビリビリに破った。

細かく引き裂いた誓約書は小さな紙片となって、ぱらぱらと紙吹雪のように机に落ちていく。

彰のお父さんは驚きのあまり、口が半開きになったまま動かない。

きっと、私が受け取ると高をくくっていたんだろう。

私が逆でも、驚いているだろう。
それ以外の選択をするなんて、馬鹿のする事だって思うから。
仮にも一流大学行ってる学生が選ぶような道ではない。

でも、馬鹿だと思われても、こんな風にお金を貰うなんて絶対に嫌だった。

お金に踊らされるのは大学を卒業するまでの我慢だって決めているのに。
なのにこんなお金を受け取ってしまったら……
その後も結局、ずっと昔の私みたいになっちゃう。

お金の為に、自分の気持ちが犠牲になる人生なんて……もう懲り懲りだ。

卒業後からは、私がお金を制して、私がお金を躍らすのよ。
その為に死ぬ物狂いで勉強をして、あの大学に入ったんだから!


やっと我に返ったような顔をした彰のお父さんは静かに質問を投げかける。
「いくらだ」
「何がですか?」

「君の希望する額を支払おう。いくらか言いなさい」
まるで業務でもこなすような雰囲気で、どこからか小さな紙を出してきた。
見るとそこには『小切手』と書かれていた。

生まれて初めて見た小切手にドキっとする。

「私は、別に……」
金額が不満で断った訳じゃない。
でもその言葉は言うより先に遮られる。

「一億か?それとも二億か?」
ペンを片手に忌々しい何かを見るかのような目で私を見てくる。
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