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涙の決断

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その音の方を振り返ると、とても綺麗な女性が入って来て、目の前に湯気をまとった綺麗な黄緑色の緑茶を置いた。

秘書とかなのかな?
と思って見ていると、ニコリと笑いかけられ、ほんの一瞬だけ緩む緊張。
でも、それもその人が出て行く音とともに張り詰められた空気に戻る。


彰のお父さんは、秘書が出ていくのを待っていたのか、ドアが閉まると直ぐに口を開いた。


「話し合いに応じてくれた事、とても感謝するよ」
いかにも社交辞令のような口調で始まる。

「いいえ」

肘置きにそっと両肘を突いた彰のお父さんは、両手の指を指の付け根まで絡ませた。

その瞳の奥に、私に対する敵意が見え隠れする。

きっと、彰を事故に巻き込んでしまったことか、彰が払った学費のことで怒っているんだろう。
それしか心あたりが無いから。

でも、小さな頃からこの人にはいい風に思われていなかった気がする。
直接話したのは今日が初めてなのに。

「そんなに固くならなくても大丈夫だよ。君にとっていい話をさせて貰おうと思って、ここまで来てもらったんだよ」

「私にとって……いい話……?」



『私にとっていい話』と言う割には、あまりにも自分の利益しか考えていないような目で、疑うしか無い。

「元令嬢の君なら、きっと理解して貰えるだろう」
前置きのようにそう言うと、ずっと斜め後ろに立っていた男性に指で何か合図を送った。

合図を受け取った男性は、軽く会釈をすると何も言わずに隣の部屋に消えて行く。

そんな様子を不思議な気持ちで見届けると、彰のお父さんは何でも無かったかのように話を続けた。

「方法なんて、いくらでもあるんだよ。
でも、私としてはできるだけ事を穏便に済ませたい気持ちがあってね」
お父さんの話す内容は、あまりにもふわっとしていて何を言いたいのか分からない。

理解出来ない言葉をぶつけられている中、ずっと眉間に入っている深いシワが妙に気になった。

普段どうなのか、今日たまたまなのかは分からないけど、全体的に凄い疲労感を感じ取れてしまう。
なんだか苦労をしょってるみたいに見える。
この人は普段なら彰とかの前でなら笑う事があるんだろうか?


「私は多忙の身でね。だからさっそくだけど本題に入らせてもらうよ」
「……はい」


「単刀直入に言わせて貰おう。……彰と別れて欲しい」
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