199 / 337
涙の決断
17
しおりを挟む-白藤遥Side-
彰は今頃、お父さんと話をしている頃かな?
あんな風に急に呼び出されたのは初めてだって言ってたけど、一体何の話をしているんだろう。
何か大変なことが起きてなければいいんだけど……。
そんな事を考えてしまうのは、さっきからずっと嫌な胸騒ぎがするから。
やだな。
こういう予感みたいなものは、なぜか大概当たってしまうから。
早く家に帰ろう、と家路に着く私は足を速めた。
駅から遠い自宅のマンションがやっと見えて来た頃、マンション前の道路に昔よく見たあの長いリムジンが見えた。
彰?
リムジンが珍しいのもあって、瞬時にそう思った。
でも、なんで?
もしかして、もう話が終わったとか?
それだと早過ぎない?
首を捻ってから車に寄ると、出てきた運転手が後部座席のドアを開けた。
次の瞬間、私は一瞬思考が停止した。
いつも後部座席から出てくるのは、彰だった。
なのに――
アスファルトに靴音を鳴らしたのは彰ではなく、どことなく彰に似た中年の男性。
その人は彰と同じ綺麗な切れ長の目をしていて、高そうなスーツを纏っていた。
冷ややかな目が私を捉えると、スっと目を細めて言った。
「こんにちは。白藤遥さんだね」
覚えてる。
この私を否定するような目。
記憶の糸を伝るまでもなく、すぐに分かった。
この人……彰のお父さんだ。
「こ……こんにちは」
「知っていると思うが、私は彰の父だ。君に大事な話がある。着いてきてくれるかな?」
彰と同じ目なのに……酷く……深い闇があるみたい。
その目に見られると、背中に冷気が走ってゾッとした。
「話……ですか?」
「そう。君にも、彰にとっても大事な話だから是非聞いて欲しい」
彰にとって、大事な話……?
そんな事を言われると、嫌でもyesと言う選択肢しか無い。
「……はい」
…………
……
会話が全く無い、居心地が最高に悪い車内。
息が詰まりそう。
……お父さんは何の話をしたいんだろう。
そんな事を考えている間に車が止まった。
窓の外を見ると、ガラス張りの高いビルの前にあるロータリーにいた。
なんでこんな所に連れて来られたのか、ここが何処なのかもよく分からないまま、さっきと同じ冷たい口調が耳元を通り抜ける。
「着いてきなさい」
そう言われて、運転手が開けるドアから慌てて降りて大人しく後を着いて歩く。
ビルの中に入ると、まるで美術館のような芸術的なエントランスが出迎えた。
オフィスビルだとは到底思えないような光景を見回していると、通る人全員が私たちに頭を下げていく。
頭を上げると皆、決まって興味津々な目で私を見て行った。
きっと、彰のお父さんがそれ程有名だからなんだろう。
何人頭を下げられたのか分からない。
そうして着いたのは接待部屋のような部屋。
部屋のインテリアや雰囲気は、あの東十条家と似ていてつい思い出してしまう。
「掛けなさい」
辺りを見ている私は、明らかに冷たく感じる口調で命令される。
どっしりと腰掛けた彰のお父さんは何を思っているのか、じっと私の様子を見ていた。
その視線はあまりにも鋭くて、思わずゴクリと唾を飲んでしまう。
怯んで、指の先まで固まってしまいそう。
「し、失礼します」
なんとか固まりきる前に身を奮い立たせて、今から就活の面接でも始まるかのようにキッチリと座ると、背後からノック音が聞こえた。
0
お気に入りに追加
75
あなたにおすすめの小説
義兄の執愛
真木
恋愛
陽花は姉の結婚と引き換えに、義兄に囲われることになる。
教え込むように執拗に抱き、甘く愛をささやく義兄に、陽花の心は砕けていき……。
悪の華のような義兄×中性的な義妹の歪んだ愛。
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる