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涙の決断

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優しい声で話す彰にドキッとしてしまう。

私が好きそうだから連れて来てくれたの?
なんて⋯⋯まさかね。

「俺はこれで。お前は?ここにないやつでもいいよ」
そう言われて机に置かれたメニューに視線を落とす。

あんな仕事をしているけど、アフターも同伴もしないから、普通のファミレスかカフェ飯が定番な私。

だから文字だけのこのメニューは難易度が高すぎる。
知らない言葉も多くて何がなんなのかサッパリ想像出来ん。

写真がないと分からないんですけど。 
何?子羊のなんとかソースって。

なのにこんな高そうな所で、これがどんな食べ物か聞くには勇気は無い。
見た目と違って、意外と小心者だし。

「この……シェフのおまかせコースで……」
出来るだけ平静に言うと、何故か彰がくっ、と笑った。




小さくイラッとして聞く。
「何よ」
「いや、別に」
その態度に更にイラッとしたけど、グッと堪える。

「彰、退院した所なのに出歩き過ぎじゃない?本当に大丈夫なの?」
執拗しつけぇ犬。何度も大丈夫だって言ってるだろ」

「ほんと?」
疑いの目を向けると鬱陶しそうに言われる。
「ほんとだよ。それ以上聞いてきたらマジで躾なおすからな」
「それだけは止めてください」
私の言葉にフッと笑みをこぼす。

退院はしたけど、まだ学校も復帰していないのにいいんだろうか?
でもこれ以上は身の安全の為に聞かないけど。


「彰、あのドレスなんだけど。やっぱり買ってもらうのなんておかしいと思うから……」
「あー、それも何度もうるせぇな!あんま俺に刃向かってばっかいると、本当にあの写真ばら撒くぞ」

今度は写真!?
不機嫌になった彰に内心慌ててしまう。
その件についてはすっかり安心しきっていたのに。

「え!?前にばらく気ないって言ってたじゃない!」
思わず立ち上がった私を見た彰は、少し間が開いてからクスっと笑った。

「馬鹿。冗談だろ」
また騙された。本気だと思ったじゃん。

訳分かんない。
悔しい。騙されたんだ。

そう思ったのに、彰の笑う顔に不覚にもドキッとさせられ、悔しさなんて吹っ飛ばされるようだった。



「か……からかったわね」
「お前が執拗しつけぇからだろ」
顎を上げてニヤリと笑うと、前菜が目の前に物音なく置かれる。
前菜はまるで美術品のようだ。

「食わねぇのか?」
綺麗な手つきで食す彰が言う。

「い、いただきます」
色々説明されたけど、全く覚えれないようなとても長い名前の前菜を口に放り込む。

うっ、何これ。
お……美味しいっ……!!

何が入ってるのか何で出来ているのか全く分からないけど、美味しすぎて前菜をペロリと食べきった私は頬に手を添えて余韻を楽しむ。

はぁー、これが本当の餌付けというやつかしら。
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