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遅すぎる自覚
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しおりを挟む「は?お前。いいよって……意味、分かって言ってんのか?」
ダルそうに首を傾げるアキラに、私は小さく頷《うなづ》いたけど、それでも信じてないって目をしている。
「分かってるよ。関わらないでって私が言っておきながら、こんなのおかしいって事も。
でも、アキラに避けられるのは…………なんか……」
嫌なの。
辛いの。
めちゃくちゃ悲しいの。
だって、こんなにもアキラが好きだから。
胸の中から素直な気持ちが沢山溢れてくるのに、大事な事は恥ずかしさと、言ったらアキラに引かれるんじゃないかって思いで、全部喉《ぜんぶのど》でつっかえた。
「なんか、何?」
代わりに何故かじわりと涙が溢れてきた。
そっちは必要ないのに。
必要な事は出ないで、不要な物ばかり出て来る自分に奮起《ふんき》させる。
「……いっ…………い、嫌なの」
目をつむって言った言葉の後に、アキラの反応が全く無くてチラっとアキラを見ると顎を突き出して見下ろし言われる。
「お前には崇ニィがいるだろ」
「え?なんでここでタカシお兄ちゃんが出てくるの?」
そう言うと、アキラは面食らったような顔に変わっていく。
え?なんでそんな顔、してるの?
と思った直後、自分の失言に気付いて口に手を当てた。
「……あっ!」
そうか。
アキラは『タカシお兄ちゃんとホテルに行った尻軽な女』だと思っているのに、付き合ってもいない感じだったから驚いた?とか?
いや、でもそんな事で驚く?
アキラとだってよく似た感じじゃん。
やっぱ私って軽い女。
アキラと体の関係だけ持って、次はタカシお兄ちゃんとホイホイとホテルに入って……
なのに自分から犬に戻る、なんて……
どちらにしても、今やろうとしている行動は、好きなアキラに自《みずか》ら『尻軽ビッチです』って宣言してるのと一緒だ。
「ごめん!やっぱ、さっきの話は無かったことに……」
と言っていると強い口調で遮られる。
「駄目だ。撤回は許さない」
私は、いつの間にか距離を詰めてきたアキラに腕を掴まれ、そのまま強引に家の中に引き込まれてしまった。
訳が分からないまま凄い勢いで玄関に連れ込まれた私は、ドアが閉まるなりドアにドンと音を立つくらいに背を当てられた。
アキラはすかさず私の耳横に片手をつき、ドキっとした。
「なぁ、本当に何もないのか?」
余った方の手で私の顎をグイッと持ち上げるアキラは謎めいた事を聞いてくる。
「……え?何が?」
私の視界はアキラが占めて、心臓が爆音を鳴らし始める。
何度も身体を重ねたはずなのに、こんな状況に心臓が喉から飛び出しそうな程に煩くなった。
「崇ニィの事だよ」
「えっ、……うん。本当に、看病してくれてただけで……」
「その後は?」
「えっ、その後……?」
なになに?なんか分からないけどめちゃくちゃ質問されてる。
……というかこの状況、尋問!?
「付き合ったりしてないのかって聞いてんだよ。馬鹿」
「付き合ってないよ」
と言うと、私の視界のアキラが大きくなって、私の唇に温かく柔らかいものが触れた。
その瞬間、少し懐かしさを感じるアキラの香りが鼻をかすめる。
そのせいで胸の奥ががギュっと絞られるように苦しくなった。
「……っ」
その温もりが伝わりきる前に、ぬめった舌が割入ってくるとすぐに口内を掻き回される。
「……んんっ」
激しく貪られているのに、何故か酷く甘く感じるキス。
軽い女って、軽蔑でもされていたらどうしよう。
そんな不安で頭がいっぱいなのに、溶けるようなキスに胸の芯がぶわっと熱くさせられる。
「んっ……」
長く重なっていた唇がそっも離れる。
閉じていた瞼をゆっくり開けると、真剣な表情のアキラが映る。
「なんで、行かなかった?」
意味が分からず首を傾げる。
「え……どこに?」
「……馬鹿っ!もういい!」
イライラしたような口調で舌打ちされて、密かに傷つきながらも聞き返す。
「何、怒ってんの?」
「お前が馬鹿だからだろ。なんで……いつもいつも分かんねぇんだよ!」
「分からないから聞いてるんでしょ?もっと分かりやすく行ってよ」
「分かるだろ」
次は歪めた顔のまま乱暴に口を塞がれる。
「んぅ……」
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