上 下
105 / 337
この想いの正体

5

しおりを挟む
瞬きをするだけで落ちてしまいそうな程に涙を溜め込んだ私は、異様に静なアキラを置いてバタバタと足音を立ててアキラの家から飛び出した。



高層マンションから出ると、いきなり雷の音が耳に飛び込んできた。
空を見上げると、泣きたいのを我慢しているような真っ黒な雲で覆われている。
今にも大雨が降りそうだ。


こんな気持ちで大学になんて行きたくないな……。
一刻も早く一人になりたい。

さっきのアキラの姿を思い出してズキズキと痛む胸に手を当てる。
苦しい……。
アキラが心配でたまらない。

今更だけど、私、この選択で良かったんだろうか?



ふと目に止まった、人気のないマンションの敷地内にある広いガーデンに誘われるように足を踏み入れる。

人通りのある歩道から少し入ると、綺麗に形を整えられた木に囲われている木製のベンチが目に入った。

迷う事なく腰掛けると、思っていた以上の冷たさが布越しにお尻に伝わる。
同時にブルっと寒気が全身を襲った。


すると――
頭頂部にぽつんと雨が落ちて来た。

「あっ……」
再び空を見上げると、さっきより更に黒い雲が勢いよく近付いていて、今にも大降りしそうなのは気象予報士でない私でも分かった。


傘なんて持ってないのに。
でも、人混みに行きたくないし、歩いて帰れる距離では無い。

どうして……。
私の人生ってこんなに上手く行かないんだろう。


そう思って強く握ったままのスマホに目を向けた。
なぜか何度も確認してしまう。
そして新着通知のない画面を見る度に悲しくて泣きそうになる。

マンションのエントランスのガラス扉が開く音が聞こえる度に、気になって何度も見てしまう。

何してるんだろ、こんな所で私……。


「あっ……」

もしかして私……、

アキラが追いかけて来てくれるのを、待ってるの?

「……なんで?
引き止められたくないんでしょ?
あんな奴と関わらない方がいいって……頭で十分過ぎるくらい分かってるじゃん。なのに……どうして……?」
自分の不可解な行動に頭を抱えた。

でも、さっき迄の自分の行動を思い返すと、本当は引き止めて欲しかったの、かも……。

「何やってんの。……自分、めちゃくちゃ面倒くさい女じゃん」

でも、本当に今ここにアキラが来て引き止められたところで、こんなぐちゃぐちゃな気持ちのまま、どうしていいのかなんて分からない。

結局の所、引き止めてくれなくて良かったのかも知れない。


でも、引き止めて欲しかった。

なんて矛盾だらけでややこしい心なんだろう……。




でも、本当はもう少し前から気付いていた。

でも、認めるのが怖かった私は、ずっと気のせいだとしらを切ってきたんだ。


でもここまで来ると……
もう自分の気持ちを認めざるを得ないんだろう。


「はぁ……私……」


アキラの事が好きなんだ。



自覚してしまった瞬間、心の涙がせきを切ったかのように溢れて来た。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

義兄の執愛

真木
恋愛
陽花は姉の結婚と引き換えに、義兄に囲われることになる。 教え込むように執拗に抱き、甘く愛をささやく義兄に、陽花の心は砕けていき……。 悪の華のような義兄×中性的な義妹の歪んだ愛。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?

春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。 しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。 美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……? 2021.08.13

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

ブラック企業を退職したら、極上マッサージに蕩ける日々が待ってました。

イセヤ レキ
恋愛
ブラック企業に勤める赤羽(あかばね)陽葵(ひまり)は、ある夜、退職を決意する。 きっかけは、雑居ビルのとあるマッサージ店。 そのマッサージ店の恰幅が良く朗らかな女性オーナーに新たな職場を紹介されるが、そこには無口で無表情な男の店長がいて……? ※ストーリー構成上、導入部だけシリアスです。 ※他サイトにも掲載しています。

処理中です...