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この想いの正体

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掴まれた手が熱い。
振り払おうとしたけど、今度は力が強くて振り払えそうにない。

「離してよ!」

引き止めないで。

そんな事されたら泣いちゃう。
それに早くここから逃げないと、決めた気持ちが揺らいでしまいそうだ。

そう思っているのに、腕を強く引かれたせいで重心が後ろに持って行かれ、アキラの膝の上にお尻がついてしまった。

間髪入れずに立ち上がろうとする私より先に回ってきて、アキラの腕に強く抱きしめられる。

「何してるの!?離して!アキラなんて嫌い!」
そう言って暴れると、私のあごに手をかけて無理やり振り返させられる。

「……離さない。絶対に」
一瞬見えたアキラの顔は苦渋に満ちた顔をしていた。



そんな表情に気を取られている隙に、簡単に唇を奪われてしまった。

こんな事されると、息が出来なくなるくらいに胸が苦しくなるし、ずっと我慢していたのに泣いちゃうじゃない。


いつもは甘くて溶けそうなアキラのキスが、今は少し塩の味がした。

強引なキスに、アキラの犬になった日のキスが脳裏に浮かんで来る。

あの日、あの写真に釣られて行ってなければ……
私がもっと、流されやすくなければ……
もっと、強く拒否していたら……

こんな辛い思いはしなくてよかったのに。
こんな事にならなかったのに。

アキラのせいにしていたけど、
結局、全部……全部、弱い私のせいだ。


「止めてって言ってるでしょ!」

思いっきり突き飛ばして立ち上がると、何故なぜかアキラの口の端から血が滲《にじ》み出す。

「……えっ。あれ……」

訳が分からないままでいると、ジンジンと熱を持つ自分のてのひらに、すぐに違和感を持って、不思議な気持ちで自分のてのひらを見る。

すると叩いた時の感覚がよみがえって来て、あの教室の時のように、またこの手で叩いてしまったんだと気付いた。



アキラの口の端から血が伝う。

そこで初めて違和感を感じたのか、アキラは口の端に伝う真っ赤な血を、手の甲で拭った。
直後、その手の甲を見るとそのまま固まった。

その姿はママに怒られた小さな子供のように見えて痛いたしくて見ていられるものではなかった。
こんな姿を見るくらいなら、まだキレられた方がよっぽどマシなのに。


「アキラ、ごめっ……」
思わず謝ろうとした自分の口を、慌てて塞いだ。

男女の最後は優しくしない方が上手く離れれると、聞いたことがある。

だからきっと今この状況では謝らない方がいい。
これが、アキラとの『最後』だから。

自分が選ぼうとしている選択肢なのに、心の中の私はひたすら泣いていた。

ずっと言いたかった、長年の不満も吐き出したのに。
スッキリどころか心の中は止まない雨が降り続いている。

『アキラとの最後』

喜ばしいはずの言葉は、余りにもつらい。

写真をバラかれた後の大学生活の心配なんか、今はどうでもよく思えるくらいに。

こんな気持ち、前にもあったな。
確かアキラに避けられるようになった小三の終わりの時と一緒だ。

アキラと離れれて嬉しいはずなのに、全く嬉しくない。
なんで?
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