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分からない気持ち
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しおりを挟むピピピ……
スマホのアラームが鳴る。
布団から手を出して手探りでスマホのサイドのボタンを押して、アラームを消す。
「……ねむっ」
朝まで働いても、寝るのは正午まで。
これは私の中の絶対的なルール。
『お金をコントロールできる人になる』という人生の目標の為にも、勉強に支障が出ない生活が最優先だから。
重すぎる瞼を無理やり開けて、起きたくないと悲鳴を上げる体にムチを打って起こす。
そして涙が出るくらい大きなアクビを出した後、とりあえず煙草に火をつける。
その後は、だいたいチョコっとだけ牛乳を入れた濃いめの珈琲を飲む。
それがいつもの日課。
全く頭が働かないまま昼イチの煙草を咥え、目に入ったスチールラック内のクラフトカラーのボックスに手を伸ばす。
そのボックスを引き出して、底から厚めの茶封筒を取り出して目の前に持って来て煙を含んだ溜め息をつく。
この封筒の中身は――
最近何度数えても足りない、ずっと積み立てている学費。
日払いで給料を貰った日は全てこの封筒に入れ、シャーペンで『日付』と『入れた金額』と『合計金額』の3つを記載するようにしている。
そして給料日にまとめて貰う方の給料は、毎月の生活費や白藤家が住むこのマンション代や、自分の娯楽とかに使っている。
この調子で二年程問題なくやってきたのに、ここ最近おかしい。
数字が合わない。
始めは数え間違いや自分の金額の書き間違えだと思った。
でも違うんだって、最近気付いてしまった。
それは、この封筒に書いた金額部分だけが消しゴムで消して上書きされたような痕跡が何ヶ所も見つかったから。
ちなみに、消して上書きなんてした覚えは無い。
でも良いのか悪いのか分からないけど、この独特な丸い筆跡を見ると……そんな事をしたのは誰かって、瞬時に分かってしまう。
私の頭に浮かんで来てしまった人物像に、思い切り頭を振る。
一生、気付きたくなかった。
知らないままでいれば、私の心は平穏でいれたのに……。
「やるなら分からないようにやってよね……」
前髪をグジャッとして、短くなった煙草を灰皿でもみ消すと、白く煙った部屋を出てリビングに向かった。
短い廊下を裸足でペタペタと足音を立てて歩く。
リビングのドアを開けると、何故かテレビの音が耳に飛び込んで来た。
その瞬間、消し忘れだと思った。
なぜなら、土曜日の昼はいつも誰もいないからだ。
弟はサッカー、お父さんは借金の返済の為に土曜日も勤務、お母さんは……浮気相手とデートだ。
「あら遥、いたの?今日は外泊じゃないのね」
誰もいないと思っていたのに声をかけられ、一瞬ドキッとする。
しかもその声の主は今、最も会いたくなかった人物。
「金曜は稼ぎ時だから朝まで仕事だよ。それより土曜日なのに和くんと会わないの?」
一瞬、上ずった声が出るも平静に話す。
合った目を自然っぽく逸らしてから、キッチンにいるお母さんの後ろを通っていつも通りな感じで冷蔵庫から牛乳を取り出す。
「今から会うのよ。和くん、今日は昼までは用事があるからって……」
「へぇ~」
よく見ると、何処かよそよそしく感じるお母さんに小さな違和感を感じとる。
ふと視線を下ろすと、何やら大事そうに何かを抱えている物に目が入る。
「何、そのワンピース」
聞いてから思った。
聞かない方が良かったんじゃないかって。
だってそのワンピースは、家計から出せる程の値段では買えなさそうな、とても高そうな物だったから。
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