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分からない気持ち
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雨の音が耳に入る。
その音を聞いて意識だけが先に覚醒した。
ずいぶん長い間寝ていた感覚がする。
体が酷く重い。
それは寝起きだからでは無く、絶対にアキラのせいだと徐々に覚めて来た頭で思った。
目を開けると、あると思っていたアキラの姿はそこに無い。
寝る前まで感じていた腕枕の温もりも、頭を撫でられていた心地良さも、今はどこにも無い。
あるのは……名の知らない苛立ちと、孤独感。
途端《とたん》に正体不明の不満が湧き上がり、眉を寄せて呟く。
「……なんなのよ」
その時、目に飛び込んで来たのは、サイドテーブルの上に置かれた一枚の白い紙。
その紙には、無駄に綺麗な字で「朝ご飯は冷蔵庫の中」と書かれてあった。
「ふふっ……嘘でしょ?」
私は笑いながら言った。
あのアキラが、私の為に朝ご飯を用意してくれるなんてあり得ないからだ。
でも、アキラがこんな面白くない冗談を言うタイプでもない。
「……意味が分からないんだけど。でもとりあえずアキラは不在なのね」
私はあくびをしながら呟き、その後大声で叫んだ。
「えっ!?不在!?」
…………
……
アキラが不在と知って、ダメ元で昨日の書斎スペースに来てみたものの……
ノートパソコンは無い。
机の上に両手をついて深いため息をつく。
悔しい気持ちを抱えながら、「やっぱ……無いよね。でも、予想通りだけど」と口をついて出ると、昨夜の艶のあるアキラの表情や言葉が一瞬で鮮明にフラッシュバックしてドクンと心臓を鳴らせた。
体を伝う水、色気を孕んだ切れ長の目……
「……っ!」
勝手に頭の中で再生される昨夜の出来事に、一瞬で沸騰するように体が熱くなって、心臓も煩《うるさ》くなって、大きく頭を振った。
逃げるように音楽部屋から出たのに、考えたくないのに、アキラの事ばっか考えてしまう。
アキラを思い出すと心臓が煩くなる。
腕枕の温もりを思い出しては、胸がギューっとなる。
手で覆う両頬は、酷く熱い。
顔を思い出すだけで……こんなにも心が乱される。
まさか、これって……
「……違う!違う!違うからっ!!」
一瞬浮かんだ予想を思いっきり否定をする。
頭を抱えながら向かった先はお風呂場。
1秒でも早く冷静になりたくて、シャワーの蛇口を捻《ひね》って、まだ温かくなっていない水を頭のてっぺんから浴びる。
「私、しっかりしてよね!
男なんてみんな一緒なんだから……。
たった二回体の関係を持っただけで情に絆《ほだ》されてんのよ!
駄目。
しかもアキラだけは……絶対に駄目。
アキラだけは……」
身体に付いたアキラの匂いが、どんどん水で流されていく。
匂いと一緒に、記憶まで流れていけばいいのに⋯⋯。
カチッと蛇口を止め、
汗を流したからか幾分か気分もスッキリした気分で脱衣所に出ると……
「⋯⋯え?」
鏡に映る自分の姿を見て固まった。
その音を聞いて意識だけが先に覚醒した。
ずいぶん長い間寝ていた感覚がする。
体が酷く重い。
それは寝起きだからでは無く、絶対にアキラのせいだと徐々に覚めて来た頭で思った。
目を開けると、あると思っていたアキラの姿はそこに無い。
寝る前まで感じていた腕枕の温もりも、頭を撫でられていた心地良さも、今はどこにも無い。
あるのは……名の知らない苛立ちと、孤独感。
途端《とたん》に正体不明の不満が湧き上がり、眉を寄せて呟く。
「……なんなのよ」
その時、目に飛び込んで来たのは、サイドテーブルの上に置かれた一枚の白い紙。
その紙には、無駄に綺麗な字で「朝ご飯は冷蔵庫の中」と書かれてあった。
「ふふっ……嘘でしょ?」
私は笑いながら言った。
あのアキラが、私の為に朝ご飯を用意してくれるなんてあり得ないからだ。
でも、アキラがこんな面白くない冗談を言うタイプでもない。
「……意味が分からないんだけど。でもとりあえずアキラは不在なのね」
私はあくびをしながら呟き、その後大声で叫んだ。
「えっ!?不在!?」
…………
……
アキラが不在と知って、ダメ元で昨日の書斎スペースに来てみたものの……
ノートパソコンは無い。
机の上に両手をついて深いため息をつく。
悔しい気持ちを抱えながら、「やっぱ……無いよね。でも、予想通りだけど」と口をついて出ると、昨夜の艶のあるアキラの表情や言葉が一瞬で鮮明にフラッシュバックしてドクンと心臓を鳴らせた。
体を伝う水、色気を孕んだ切れ長の目……
「……っ!」
勝手に頭の中で再生される昨夜の出来事に、一瞬で沸騰するように体が熱くなって、心臓も煩《うるさ》くなって、大きく頭を振った。
逃げるように音楽部屋から出たのに、考えたくないのに、アキラの事ばっか考えてしまう。
アキラを思い出すと心臓が煩くなる。
腕枕の温もりを思い出しては、胸がギューっとなる。
手で覆う両頬は、酷く熱い。
顔を思い出すだけで……こんなにも心が乱される。
まさか、これって……
「……違う!違う!違うからっ!!」
一瞬浮かんだ予想を思いっきり否定をする。
頭を抱えながら向かった先はお風呂場。
1秒でも早く冷静になりたくて、シャワーの蛇口を捻《ひね》って、まだ温かくなっていない水を頭のてっぺんから浴びる。
「私、しっかりしてよね!
男なんてみんな一緒なんだから……。
たった二回体の関係を持っただけで情に絆《ほだ》されてんのよ!
駄目。
しかもアキラだけは……絶対に駄目。
アキラだけは……」
身体に付いたアキラの匂いが、どんどん水で流されていく。
匂いと一緒に、記憶まで流れていけばいいのに⋯⋯。
カチッと蛇口を止め、
汗を流したからか幾分か気分もスッキリした気分で脱衣所に出ると……
「⋯⋯え?」
鏡に映る自分の姿を見て固まった。
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