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遥の過去

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一瞬張り詰めた空気が漂ったあと、後で現れたと思われる人に向かって周りが一気に動き出した。

ドスッと何度か鈍い音が鳴る。
その後に聞こえてくるのは男たちのうめきき声。

目の前で一体何が起こっているんだろうか。
泣いた影響のせいでまばたきする度に視界が揺れるしかすむしで、前がよく見えない。

でもかろうじて分かるのは、後ろで私の腕を拘束してる奴と、後から来たと思われるもう1人以外は皆、地面にひれ伏せてしまったという事だ。

嘘っ。
あんな人数を⋯⋯たった一人で?


「ひっ、冗談だろ⋯⋯なんで皆やられてんだよ。⋯⋯お前、誰なんだよ。この女のツレか?」
後から来た人はその問いには答えない。

「は、離すから、た、助けてくれよ。な?」
すぐに私の腕を解放する後ろの奴。

直後、後ろの人は勢いよく遠くにあるゴミ箱のような物に向かって投げつけられていた。
まるでそれは、私から離れるのを待っていたかのような、瞬速の速さだった。

後から来た人は、倒れたばかりの男の腹をドスドスと容赦ようしゃなく何度も蹴りあげる。

その度に上がる、耳を塞ぎたくなるほどの酷いうめき声に思わずストップをかけた。
「や、止めて!この人が死んじゃう!」

さっきまで自分を犯そうとしていた奴をかばうなんて、どうかしてるって分かってる。

でも、目の前でここまでの残虐な行為を何も言わずに見ていることなんて出来なかった。



私の言葉に反応したその人は動きを止めて、体をこちらに向ける。

そして一瞬で静まり返った路地に、コツコツと革靴のような音を響かせ、ゆっくりと近付いて来る。

そんな様子に、思わず体を強ばらせると、スっと手が差し伸べられた。

「大丈夫か?」
その声は優しく感じた。

ちゃんと助けてくれた人の目を見てお礼を言わないといけないのに、この状況に頭が全く追いつかないし、擦れば擦る程さっきよりかすんでいく目。

仕方なく、自然に霞みが取れるのを待とうと目の前にある助けてくれた人の手を取る。
それは大きくて温かな手。

ギュッと握ってその手を見ると腕の付け根に何かが付いていて目を凝らす。
そこには星型のアザか傷跡のようなものがあった。

変わった形のアザ⋯⋯


痣に気を取られていると「間に合って、良かった⋯⋯」と、めちゃくちゃ長いため息の後に言われる。

もしかして連れ込まれている現場でも見たんだろうか。

なんて親切な人なんだろう。
私の為にたった一人でこんな所まで助けに来てくれて、本当に感謝しかない。

世の中、こんな男の人ばかりならいいのに。
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