294 / 304
侮られる王
しおりを挟む
「わたしとフェイロン帝国の皇太子の結婚!?」
お父様にそう告げられる。その横でお母様はそうなのよと頷いている。
同じ部屋にはフェイロン帝国の使者がいる。ニコニコと笑う使者の二人は異国のゆったりとした服装で、親しみやすい雰囲気を出している。
しかしわたしを皇太子妃にふさわしいか?と、上から下までジロジロと見て検分しているのがわかる。そのせいで『絶対嫌よ!』と叫ぶことはできなかった。ここはお父様とお母様のメンツをつぶしちゃいけないところ。
淑女であれ!我慢よ!と心の中で自分に言い聞かせる。
「でもまだクロエは結婚するには幼いでしょう?だから、お父様も私も心配してるのよ。あなたの考えはどう?」
「そうだ。クロエ、とりあえず婚約からと言う話だが、なるべく早く後宮へ招きたいとの申し出だ。どうする?」
えええっ!?こんな時、わたしに選択肢をくれるの!?普通は両親といえども、王命じゃないの?フェイロン帝国の使者もおかしいと思ったらしく笑顔が消えて、ヒソヒソと二人でなにか話している。
……ダメだわ。読めない。お父様とお母様の考えがどこにあるのかわからない。断ってほしいのか、それとも同意してほしいのか?どこかへ嫁ぐことを覚悟していたけれど、フェイロン帝国とは予想外だし遠すぎる。
「わたし……こんな……急なことで、どう答えて良いかわかりません」
可愛く言ってみた。時間をとりあえずもらいたい。
使者の一人がそうでしょうなぁと頷く。
「口を挟むこと、お許しください。確かに幼き皇太子殿下、王女殿下には判断は難しく、我々、大人が正しき答えを導きだしてやらねばならないと思います。決して悪い話ではないかと思うのですが?」
お父様は椅子の肘掛けに肘をついて、うーん、そうだなぁと言葉を濁す。お母さまもどうしましょう?と困った様子なのに、どこかのんびり穏やかな雰囲気だ。二人とも落ち着いていて、わたしの婚約についてはどっちでもいいという感じにとれた。なぜそんなに呑気な雰囲気なのだろう?
「いったん、この話は預からせてもらっていいだろうか?決断するには早急すぎるな。娘も考えたい様子だ」
「ほんとねぇ。もう少しのんびり考えさせてもらえると良いわねぇ~」
な、なんなのかしら?普段のお父様とお母様を知っていると、このぼんやりとした姿は演技だとわかるだろう。わたしなんて鳥肌たってきたわよ。正解か不正解かわからないけど……と、わたしはスッとお辞儀をし、それから淑女らしく、落ち着いた声で言った。
「わたしは突然、話を聞いて驚いています。良いお話ではあると思うのですが、気持ちを落ち着け考えるため、少し時間をください」
使者たちは顔を見合わせてから、わかりましたと頷き、深々とお辞儀をしたのだった。
わたしは退席をしていいと言われ、部屋から出ていった。どういうことかしら?と首を傾げる。お父様とお母様は無理やり結婚しなさいとか言わないのね。いやいや……この二人のことだから、私の意思を尊重するというより、なにかあるんじゃない!?裏があると思うのよね。
えーと、フェイロン帝国といえば、確かユクドールの東へ行ったところにある、東の大国だったはず。うちの国とは遠いから、交流も今までなかったのに?急になぜなの?
謹慎中のため、外に出ることはできず、城の中で考えごとをしながら彷徨いていると、廊下の向こう側から、気になる声がした。思わずわたしはさっと隠れた。
「この国の王はだめだな。獅子王という二つ名は名ばかりのものだな!」
さっきの使者じゃないの?異国服のため目立つ。声も大きいし。
「ははっ。そうだな。娘一人の意見を求めるということは相当な親バカ。親のいうことをきかせられぬとはな」
「そう国へ帰って伝えよう。恐れぬに足りぬ。偉大なフェイロン帝ならあっという間に制圧できそうな国だ」
なんですってー!わたしはグッと拳を作る。
「間違いない!王があれではなぁ!はっはっは!」
嘲られているのがわかる。二人はわたしのことに気づかないまま、歩いて行ってしまう。
わたし一人のせいで?こんな風にお父様が言われてしまうのね。トボトボと廊下を歩き、いつの間にかウィリアムのところへ来ていた。
「クロエ?どうしたんだよ!?」
「ウィリアム~。どうしよう」
半泣きのわたしを見て察する。
「あー、もしかして縁談のこと?噂になってるよ」
「もう!?」
「気になることだからね。お父様とお母様はなんて?」
「クロエはどうか?ってわたしに聞くのよ」
「えっ?クロエの意思で決めていいの!?」
そうらしいわと言うと、ウィリアムは腕組みをし、難しい顔をして言った。
「言葉を素直に受け取っていいのかどうか分からないね。お父様とお母様の考えを読むことが難しいよ。それに……最近のお父様は僕には厳しいしから気軽に尋ねられないしね」
わたしと同じことを思っているウィリアムだったが、なぜか言葉の最後になると、元気のない顔をして下を向いたのだった。
お父様にそう告げられる。その横でお母様はそうなのよと頷いている。
同じ部屋にはフェイロン帝国の使者がいる。ニコニコと笑う使者の二人は異国のゆったりとした服装で、親しみやすい雰囲気を出している。
しかしわたしを皇太子妃にふさわしいか?と、上から下までジロジロと見て検分しているのがわかる。そのせいで『絶対嫌よ!』と叫ぶことはできなかった。ここはお父様とお母様のメンツをつぶしちゃいけないところ。
淑女であれ!我慢よ!と心の中で自分に言い聞かせる。
「でもまだクロエは結婚するには幼いでしょう?だから、お父様も私も心配してるのよ。あなたの考えはどう?」
「そうだ。クロエ、とりあえず婚約からと言う話だが、なるべく早く後宮へ招きたいとの申し出だ。どうする?」
えええっ!?こんな時、わたしに選択肢をくれるの!?普通は両親といえども、王命じゃないの?フェイロン帝国の使者もおかしいと思ったらしく笑顔が消えて、ヒソヒソと二人でなにか話している。
……ダメだわ。読めない。お父様とお母様の考えがどこにあるのかわからない。断ってほしいのか、それとも同意してほしいのか?どこかへ嫁ぐことを覚悟していたけれど、フェイロン帝国とは予想外だし遠すぎる。
「わたし……こんな……急なことで、どう答えて良いかわかりません」
可愛く言ってみた。時間をとりあえずもらいたい。
使者の一人がそうでしょうなぁと頷く。
「口を挟むこと、お許しください。確かに幼き皇太子殿下、王女殿下には判断は難しく、我々、大人が正しき答えを導きだしてやらねばならないと思います。決して悪い話ではないかと思うのですが?」
お父様は椅子の肘掛けに肘をついて、うーん、そうだなぁと言葉を濁す。お母さまもどうしましょう?と困った様子なのに、どこかのんびり穏やかな雰囲気だ。二人とも落ち着いていて、わたしの婚約についてはどっちでもいいという感じにとれた。なぜそんなに呑気な雰囲気なのだろう?
「いったん、この話は預からせてもらっていいだろうか?決断するには早急すぎるな。娘も考えたい様子だ」
「ほんとねぇ。もう少しのんびり考えさせてもらえると良いわねぇ~」
な、なんなのかしら?普段のお父様とお母様を知っていると、このぼんやりとした姿は演技だとわかるだろう。わたしなんて鳥肌たってきたわよ。正解か不正解かわからないけど……と、わたしはスッとお辞儀をし、それから淑女らしく、落ち着いた声で言った。
「わたしは突然、話を聞いて驚いています。良いお話ではあると思うのですが、気持ちを落ち着け考えるため、少し時間をください」
使者たちは顔を見合わせてから、わかりましたと頷き、深々とお辞儀をしたのだった。
わたしは退席をしていいと言われ、部屋から出ていった。どういうことかしら?と首を傾げる。お父様とお母様は無理やり結婚しなさいとか言わないのね。いやいや……この二人のことだから、私の意思を尊重するというより、なにかあるんじゃない!?裏があると思うのよね。
えーと、フェイロン帝国といえば、確かユクドールの東へ行ったところにある、東の大国だったはず。うちの国とは遠いから、交流も今までなかったのに?急になぜなの?
謹慎中のため、外に出ることはできず、城の中で考えごとをしながら彷徨いていると、廊下の向こう側から、気になる声がした。思わずわたしはさっと隠れた。
「この国の王はだめだな。獅子王という二つ名は名ばかりのものだな!」
さっきの使者じゃないの?異国服のため目立つ。声も大きいし。
「ははっ。そうだな。娘一人の意見を求めるということは相当な親バカ。親のいうことをきかせられぬとはな」
「そう国へ帰って伝えよう。恐れぬに足りぬ。偉大なフェイロン帝ならあっという間に制圧できそうな国だ」
なんですってー!わたしはグッと拳を作る。
「間違いない!王があれではなぁ!はっはっは!」
嘲られているのがわかる。二人はわたしのことに気づかないまま、歩いて行ってしまう。
わたし一人のせいで?こんな風にお父様が言われてしまうのね。トボトボと廊下を歩き、いつの間にかウィリアムのところへ来ていた。
「クロエ?どうしたんだよ!?」
「ウィリアム~。どうしよう」
半泣きのわたしを見て察する。
「あー、もしかして縁談のこと?噂になってるよ」
「もう!?」
「気になることだからね。お父様とお母様はなんて?」
「クロエはどうか?ってわたしに聞くのよ」
「えっ?クロエの意思で決めていいの!?」
そうらしいわと言うと、ウィリアムは腕組みをし、難しい顔をして言った。
「言葉を素直に受け取っていいのかどうか分からないね。お父様とお母様の考えを読むことが難しいよ。それに……最近のお父様は僕には厳しいしから気軽に尋ねられないしね」
わたしと同じことを思っているウィリアムだったが、なぜか言葉の最後になると、元気のない顔をして下を向いたのだった。
1
あなたにおすすめの小説
わたしにしか懐かない龍神の子供(?)を拾いました~可愛いんで育てたいと思います
あきた
ファンタジー
明治大正風味のファンタジー恋愛もの。
化物みたいな能力を持ったせいでいじめられていたキイロは、強引に知らない家へ嫁入りすることに。
所が嫁入り先は火事だし、なんか子供を拾ってしまうしで、友人宅へ一旦避難。
親もいなさそうだし子供は私が育てようかな、どうせすぐに離縁されるだろうし。
そう呑気に考えていたキイロ、ところが嫁ぎ先の夫はキイロが行方不明で発狂寸前。
実は夫になる『薄氷の君』と呼ばれる銀髪の軍人、やんごとなき御家柄のしかも軍でも出世頭。
おまけに超美形。その彼はキイロに夢中。どうやら過去になにかあったようなのだが。
そしてその彼は、怒ったらとんでもない存在になってしまって。
※タイトルはそのうち変更するかもしれません※
※お気に入り登録お願いします!※
初耳なのですが…、本当ですか?
あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た!
でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
わたしのことがお嫌いなら、離縁してください~冷遇された妻は、過小評価されている~
絹乃
恋愛
伯爵夫人のフロレンシアは、夫からもメイドからも使用人以下の扱いを受けていた。どんなに離婚してほしいと夫に訴えても、認めてもらえない。夫は自分の愛人を屋敷に迎え、生まれてくる子供の世話すらもフロレンシアに押しつけようと画策する。地味で目立たないフロレンシアに、どんな価値があるか夫もメイドも知らずに。彼女を正しく理解しているのは騎士団の副団長エミリオと、王女のモニカだけだった。※番外編が別にあります。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる