天才と呼ばれた彼女は無理矢理入れられた後宮で、怠惰な生活を極めようとする

カエデネコ

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侮られる王

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「わたしとフェイロン帝国の皇太子の結婚!?」

 お父様にそう告げられる。その横でお母様はそうなのよと頷いている。

 同じ部屋にはフェイロン帝国の使者がいる。ニコニコと笑う使者の二人は異国のゆったりとした服装で、親しみやすい雰囲気を出している。

 しかしわたしを皇太子妃にふさわしいか?と、上から下までジロジロと見て検分しているのがわかる。そのせいで『絶対嫌よ!』と叫ぶことはできなかった。ここはお父様とお母様のメンツをつぶしちゃいけないところ。

 淑女であれ!我慢よ!と心の中で自分に言い聞かせる。

「でもまだクロエは結婚するには幼いでしょう?だから、お父様も私も心配してるのよ。あなたの考えはどう?」

「そうだ。クロエ、とりあえず婚約からと言う話だが、なるべく早く後宮へ招きたいとの申し出だ。どうする?」

 えええっ!?こんな時、わたしに選択肢をくれるの!?普通は両親といえども、王命じゃないの?フェイロン帝国の使者もおかしいと思ったらしく笑顔が消えて、ヒソヒソと二人でなにか話している。

 ……ダメだわ。読めない。お父様とお母様の考えがどこにあるのかわからない。断ってほしいのか、それとも同意してほしいのか?どこかへ嫁ぐことを覚悟していたけれど、フェイロン帝国とは予想外だし遠すぎる。

「わたし……こんな……急なことで、どう答えて良いかわかりません」

 可愛く言ってみた。時間をとりあえずもらいたい。

 使者の一人がそうでしょうなぁと頷く。

「口を挟むこと、お許しください。確かに幼き皇太子殿下、王女殿下には判断は難しく、我々、大人が正しき答えを導きだしてやらねばならないと思います。決して悪い話ではないかと思うのですが?」

 お父様は椅子の肘掛けに肘をついて、うーん、そうだなぁと言葉を濁す。お母さまもどうしましょう?と困った様子なのに、どこかのんびり穏やかな雰囲気だ。二人とも落ち着いていて、わたしの婚約についてはどっちでもいいという感じにとれた。なぜそんなに呑気な雰囲気なのだろう?

「いったん、この話は預からせてもらっていいだろうか?決断するには早急すぎるな。娘も考えたい様子だ」

「ほんとねぇ。もう少しのんびり考えさせてもらえると良いわねぇ~」

 な、なんなのかしら?普段のお父様とお母様を知っていると、このぼんやりとした姿は演技だとわかるだろう。わたしなんて鳥肌たってきたわよ。正解か不正解かわからないけど……と、わたしはスッとお辞儀をし、それから淑女らしく、落ち着いた声で言った。

「わたしは突然、話を聞いて驚いています。良いお話ではあると思うのですが、気持ちを落ち着け考えるため、少し時間をください」 

 使者たちは顔を見合わせてから、わかりましたと頷き、深々とお辞儀をしたのだった。

 わたしは退席をしていいと言われ、部屋から出ていった。どういうことかしら?と首を傾げる。お父様とお母様は無理やり結婚しなさいとか言わないのね。いやいや……この二人のことだから、私の意思を尊重するというより、なにかあるんじゃない!?裏があると思うのよね。

 えーと、フェイロン帝国といえば、確かユクドールの東へ行ったところにある、東の大国だったはず。うちの国とは遠いから、交流も今までなかったのに?急になぜなの?

 謹慎中のため、外に出ることはできず、城の中で考えごとをしながら彷徨いていると、廊下の向こう側から、気になる声がした。思わずわたしはさっと隠れた。

「この国の王はだめだな。獅子王という二つ名は名ばかりのものだな!」

 さっきの使者じゃないの?異国服のため目立つ。声も大きいし。

「ははっ。そうだな。娘一人の意見を求めるということは相当な親バカ。親のいうことをきかせられぬとはな」

「そう国へ帰って伝えよう。恐れぬに足りぬ。偉大なフェイロン帝ならあっという間に制圧できそうな国だ」

 なんですってー!わたしはグッと拳を作る。
 
「間違いない!王があれではなぁ!はっはっは!」

 嘲られているのがわかる。二人はわたしのことに気づかないまま、歩いて行ってしまう。

 わたし一人のせいで?こんな風にお父様が言われてしまうのね。トボトボと廊下を歩き、いつの間にかウィリアムのところへ来ていた。

「クロエ?どうしたんだよ!?」

「ウィリアム~。どうしよう」

 半泣きのわたしを見て察する。

「あー、もしかして縁談のこと?噂になってるよ」

「もう!?」

「気になることだからね。お父様とお母様はなんて?」

「クロエはどうか?ってわたしに聞くのよ」

「えっ?クロエの意思で決めていいの!?」

 そうらしいわと言うと、ウィリアムは腕組みをし、難しい顔をして言った。

「言葉を素直に受け取っていいのかどうか分からないね。お父様とお母様の考えを読むことが難しいよ。それに……最近のお父様は僕には厳しいしから気軽に尋ねられないしね」
 
 わたしと同じことを思っているウィリアムだったが、なぜか言葉の最後になると、元気のない顔をして下を向いたのだった。
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