253 / 304
(番外編)花を咲かせる恋
しおりを挟む
「ご結婚をそろそろしてください。もういい歳なのに婚約者すらいない王なんて、この国の民も心配します!」
普通の仕事は積極的にしない宰相のくせに、前々から結婚のことだけはうるさい。
「婚約する暇も結婚する暇もない。南北の蛮族、虎視眈々と狙う周辺諸国を追い払うのに忙しい。父王がさぼっていたおかげで、オレがどれだけ苦労していると思ってる?」
おまえも父王の代からいただろうが!?と遠回しに宰相に対して嫌味を言っているが、宰相は気付かない。
「ウィルバート陛下がそういうだろうと思って、こちらでいい感じの女性を選ばせてもらいました。そのうち後宮に集まってもらいます」
「なんだって!?勝手なことを……」
「ここまでしないと、陛下はいつまでもみつけないでしょう!?心配してのことです。どうかお願いします!せめて形ばかりの婚約者だけでも良いですからみつけてください」
唖然としたが……確かにそろそろ必要なことはわかっていた。王家のために子を成して後継者がいる。立場的に理解はしている。
だから、宰相がそこまで推すのもわかってはいた。後宮に女性たちを招くのは気乗りしないが。
そんなやりとりをした後、以前から気分転換にお忍びで行っている私塾に顔を出した。
「ウィル。私、後宮に行くの」
「こ、こここ後宮!?ってどこの国の王のところへ行くつもりなんだ!?」
オレの初恋の女の子で、密かに想っているリアンは緑の目を曇らせた。
「どこって、この国のよ」
つまりオレ!?オレのところ!?
頬に一筋の汗が流れる。賢いリアンだが、彼女もまた動揺しているのか、オレの慌てぶりに気づかない。落ちつけオレと自分に言い聞かせる。
「お父様が承諾しちゃったらしいのよ。お母様もノリノリで、どうしようもないわ」
「リアンは一生独身で王宮勤めでもするのかと思っていたよ」
だからリアンとの恋愛や結婚は諦めていた。彼女には将来の夢があったからだ。こうやって見守っているだけでも幸せだと自分に言い聞かせてきた。
「私だって、そう思っていたわ。結婚なんて退屈だもの」
国中の優秀な者達が集まる、この私塾でも1、2位を争うほどの頭脳と才能にあふれる彼女だったから、両親もそのつもりだろうと思っていた。リアンなら女性だろうがエリートコースを歩き、もしかして宰相まで登りつめて来るかもしれない。
「リアンは納得してるのか?それに王様がどんなやつか知ってるのか?顔を見たことあるのか!?」
まさかとは思うけど、ばれてないよな?
「まったく知らないわ。若い王で『獅子王』と呼ばれてるくらいしか知らないの」
「顔も知らないやつのところへ嫁いで良いのか?」
本当は知っているやつで、目の前にいるけど……と思いつつ尋ねる。
「そうよ。私が行かないなら、妹を身代わりにするとか無茶苦茶言われて脅されてるの。妹は体が弱いから行かせられないわ」
オレは頭を抱えたくなる。こんなことってあるか?今まで告白することを我慢してきたのに……。
「ウィル、今までありがとう。今日で私塾へくるのも最後かしら。一番仲の良かったあなたに会って挨拶することができて良かったわ。私、私塾で学べて楽しかった。これあげるわ」
「え……?これなんだ?」
「内緒よ」
手のひらに渡されたのは封筒で、中には小さい種が入っていた。どういう意味だろう。時々、リアンの考えが読めないことがある。彼女は人の10歩くらい先を見ている。
「ウィルが花を咲かせられたら、そこに私からのメッセージが書いてあるわ」
少し悲しそうに笑う。……後宮なんて嫌だよな。そうだよな。
「私ね、努力して、勉強すれば、いつか認めてもらえるって思っていたの。でも無理だった。それに結婚するなら好きな人としたかったわ」
ごめん。と心の中で謝る。リアンの好きな人がオレだといいのにな。だけどそんな素振りは一つもないから違うんだろうな。せつなくなる。
とりあえず、彼女がオレに贈ってくれた種を植えて、どんな花が咲くのか見てみたい。
どんな色なのか形なのか香りなのかと興味があった。
………あれから一年、いろいろあったが、リアンはオレの後宮に入ってくれて、一緒に過ごすという奇跡的なことになっている。
「そういえば、リアンがあの時、くれた花が咲いたんだけど?」
リアンがブッとお茶を吹き出しかけた。頬を赤く染めている。
花言葉を調べたことは内緒にしておこう。気持ちを口に出して伝えることを恥ずかしがる彼女ならではの方法がとても可愛らしい。
「あの時はウィルともう会えないのかなって思ったのよっ!まさか王様だって知らなかったもの!」
「ははっ」
「なに!?なんなのよ!その含みのある笑い方は!?」
ますます頬が赤くなり、ムキになっている。もはや夫婦になっている今、照れなくてもいいんだけどな。
だけど、その意味を知った時、オレがどれだけうれしくて幸せな気持ちになったか、リアンにわかるだろうか?伝わっているだろうか?
これ、リアンにとオレは種を手渡した。彼女は不思議な顔をした。
「これは?」
「花の種だよ。リアンへオレからの返事だ。花を咲かせたら、そこに答えが書いてある」
ええええっ!と声をあげて小さな種をみつめるリアン。
「あ、ありがとうと言えばいいのかしら?」
クスクス笑う俺を見て、彼女は複雑そうだった。
―――――とりあえず気持ちを伝えるところから始めようか。
花に想いをのせて。
普通の仕事は積極的にしない宰相のくせに、前々から結婚のことだけはうるさい。
「婚約する暇も結婚する暇もない。南北の蛮族、虎視眈々と狙う周辺諸国を追い払うのに忙しい。父王がさぼっていたおかげで、オレがどれだけ苦労していると思ってる?」
おまえも父王の代からいただろうが!?と遠回しに宰相に対して嫌味を言っているが、宰相は気付かない。
「ウィルバート陛下がそういうだろうと思って、こちらでいい感じの女性を選ばせてもらいました。そのうち後宮に集まってもらいます」
「なんだって!?勝手なことを……」
「ここまでしないと、陛下はいつまでもみつけないでしょう!?心配してのことです。どうかお願いします!せめて形ばかりの婚約者だけでも良いですからみつけてください」
唖然としたが……確かにそろそろ必要なことはわかっていた。王家のために子を成して後継者がいる。立場的に理解はしている。
だから、宰相がそこまで推すのもわかってはいた。後宮に女性たちを招くのは気乗りしないが。
そんなやりとりをした後、以前から気分転換にお忍びで行っている私塾に顔を出した。
「ウィル。私、後宮に行くの」
「こ、こここ後宮!?ってどこの国の王のところへ行くつもりなんだ!?」
オレの初恋の女の子で、密かに想っているリアンは緑の目を曇らせた。
「どこって、この国のよ」
つまりオレ!?オレのところ!?
頬に一筋の汗が流れる。賢いリアンだが、彼女もまた動揺しているのか、オレの慌てぶりに気づかない。落ちつけオレと自分に言い聞かせる。
「お父様が承諾しちゃったらしいのよ。お母様もノリノリで、どうしようもないわ」
「リアンは一生独身で王宮勤めでもするのかと思っていたよ」
だからリアンとの恋愛や結婚は諦めていた。彼女には将来の夢があったからだ。こうやって見守っているだけでも幸せだと自分に言い聞かせてきた。
「私だって、そう思っていたわ。結婚なんて退屈だもの」
国中の優秀な者達が集まる、この私塾でも1、2位を争うほどの頭脳と才能にあふれる彼女だったから、両親もそのつもりだろうと思っていた。リアンなら女性だろうがエリートコースを歩き、もしかして宰相まで登りつめて来るかもしれない。
「リアンは納得してるのか?それに王様がどんなやつか知ってるのか?顔を見たことあるのか!?」
まさかとは思うけど、ばれてないよな?
「まったく知らないわ。若い王で『獅子王』と呼ばれてるくらいしか知らないの」
「顔も知らないやつのところへ嫁いで良いのか?」
本当は知っているやつで、目の前にいるけど……と思いつつ尋ねる。
「そうよ。私が行かないなら、妹を身代わりにするとか無茶苦茶言われて脅されてるの。妹は体が弱いから行かせられないわ」
オレは頭を抱えたくなる。こんなことってあるか?今まで告白することを我慢してきたのに……。
「ウィル、今までありがとう。今日で私塾へくるのも最後かしら。一番仲の良かったあなたに会って挨拶することができて良かったわ。私、私塾で学べて楽しかった。これあげるわ」
「え……?これなんだ?」
「内緒よ」
手のひらに渡されたのは封筒で、中には小さい種が入っていた。どういう意味だろう。時々、リアンの考えが読めないことがある。彼女は人の10歩くらい先を見ている。
「ウィルが花を咲かせられたら、そこに私からのメッセージが書いてあるわ」
少し悲しそうに笑う。……後宮なんて嫌だよな。そうだよな。
「私ね、努力して、勉強すれば、いつか認めてもらえるって思っていたの。でも無理だった。それに結婚するなら好きな人としたかったわ」
ごめん。と心の中で謝る。リアンの好きな人がオレだといいのにな。だけどそんな素振りは一つもないから違うんだろうな。せつなくなる。
とりあえず、彼女がオレに贈ってくれた種を植えて、どんな花が咲くのか見てみたい。
どんな色なのか形なのか香りなのかと興味があった。
………あれから一年、いろいろあったが、リアンはオレの後宮に入ってくれて、一緒に過ごすという奇跡的なことになっている。
「そういえば、リアンがあの時、くれた花が咲いたんだけど?」
リアンがブッとお茶を吹き出しかけた。頬を赤く染めている。
花言葉を調べたことは内緒にしておこう。気持ちを口に出して伝えることを恥ずかしがる彼女ならではの方法がとても可愛らしい。
「あの時はウィルともう会えないのかなって思ったのよっ!まさか王様だって知らなかったもの!」
「ははっ」
「なに!?なんなのよ!その含みのある笑い方は!?」
ますます頬が赤くなり、ムキになっている。もはや夫婦になっている今、照れなくてもいいんだけどな。
だけど、その意味を知った時、オレがどれだけうれしくて幸せな気持ちになったか、リアンにわかるだろうか?伝わっているだろうか?
これ、リアンにとオレは種を手渡した。彼女は不思議な顔をした。
「これは?」
「花の種だよ。リアンへオレからの返事だ。花を咲かせたら、そこに答えが書いてある」
ええええっ!と声をあげて小さな種をみつめるリアン。
「あ、ありがとうと言えばいいのかしら?」
クスクス笑う俺を見て、彼女は複雑そうだった。
―――――とりあえず気持ちを伝えるところから始めようか。
花に想いをのせて。
11
あなたにおすすめの小説
わたしにしか懐かない龍神の子供(?)を拾いました~可愛いんで育てたいと思います
あきた
ファンタジー
明治大正風味のファンタジー恋愛もの。
化物みたいな能力を持ったせいでいじめられていたキイロは、強引に知らない家へ嫁入りすることに。
所が嫁入り先は火事だし、なんか子供を拾ってしまうしで、友人宅へ一旦避難。
親もいなさそうだし子供は私が育てようかな、どうせすぐに離縁されるだろうし。
そう呑気に考えていたキイロ、ところが嫁ぎ先の夫はキイロが行方不明で発狂寸前。
実は夫になる『薄氷の君』と呼ばれる銀髪の軍人、やんごとなき御家柄のしかも軍でも出世頭。
おまけに超美形。その彼はキイロに夢中。どうやら過去になにかあったようなのだが。
そしてその彼は、怒ったらとんでもない存在になってしまって。
※タイトルはそのうち変更するかもしれません※
※お気に入り登録お願いします!※
初耳なのですが…、本当ですか?
あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た!
でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
わたしのことがお嫌いなら、離縁してください~冷遇された妻は、過小評価されている~
絹乃
恋愛
伯爵夫人のフロレンシアは、夫からもメイドからも使用人以下の扱いを受けていた。どんなに離婚してほしいと夫に訴えても、認めてもらえない。夫は自分の愛人を屋敷に迎え、生まれてくる子供の世話すらもフロレンシアに押しつけようと画策する。地味で目立たないフロレンシアに、どんな価値があるか夫もメイドも知らずに。彼女を正しく理解しているのは騎士団の副団長エミリオと、王女のモニカだけだった。※番外編が別にあります。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる