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砂漠の後宮

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 ひと眠りし、やっと疲れが少し抜けた気がする。うーんと背伸びする。

「よく寝ていましたね」

 私は驚いて、声の方を見ると、赤毛で日に焼けたそばかすのある顔をした可愛らしい女の子がいた。

「本日より身の回りのお世話をさせていただきますアイシャと申します」

「そうなのね。よろしくお願いするわ」

 ジッと私を見る。もの言いたげだが、無言。

 ……なに?

「特に用はないけど、お腹空いているから、食事を用意できる?それとも自分でしなきゃいけないのかしら?文化が違うからよくわからないのよ。教えてくれないかしら?」

 私の言葉に目を見開く。

「あのぅ……使用人にお願いなどと言わないでください。ただ命じてくださればいいのです。お食事はすぐに運びます。気付かず申し訳ありませんでした」

 慌てて去っていく。わからないけど、マズイこと言ったかしら?確かこの砂漠の国は厳しい身分制度が根付いている。ぼんやりと以前、本で得た知識を思い出す、気軽に話しかけてはいけなかったのかもしれない。主従関係がしっかりとした国では線引きをしっかりすべきだったのかしら?文化の違いはなかなかデリケートで難しいものだ。

 アイシャは丁寧に並べていく。丸くて平べったいパン。香辛料の効いた肉団子の入ったスープ、フルーツ、煮豆。食べなれた味ではないけれど、どれも一口食べてみると美味しかった。

「私の予想だけど、この砂漠の国って、ハイロン国でいいのかしら?」

「え!?あ、はい。そうです」

 やはりそうなのね。うーん。この国の王はウィルバートと同じくらいの年齢じゃなかったかしら?丸いパンをちぎって食べる。固いけど、噛むと甘味が出てきて美味しい。

 もぐもぐ食べながら考える。ウィルを待つべきか、逃げるべきか……すれ違いになってしまう可能性もあるわね。しばらく待ってみるべきかしら。連絡を取れないから、想定して動くしかない。

「王様はあまり後宮に来ないのかしら?」

「よくいらっしゃいますが、お会いになるのは、第五王妃までです。他の女性を見て楽しむことはあっても、触れたり呼んだりすることはありません」

 確認してみたが、同じことを言われる。ここ王様は女性は自分のコレクションの一つってわけね。なにより身分が低い者とは交わらないのだろう。まあ、その方が都合が良いわ。もしかしたら、外交で会ったことがあった気もする。顔を合わせない方が良いだろう。ここにエイルシアの王妃がいるとわかったら、いろいろめんどくさい。

 しばらく、ここで助けを待つ選択肢を選ぶことにしよう。無理やり逃げて、逃げ切れる保証はない。奴隷として見られているなら。逆らうのは危険ね。

「あら?この絨毯の模様素敵ね」

 ふと、足元のふかふかした絨毯に目がいった。

「ハイロン国の名産品です。絨毯の模様は伝統的なもので、決められた模様があるんですよ」

「へぇ。これは売れるわね」

「はい?」

 スープを一口飲む。

「この香辛料も安く手に入るといいわね。この国にあるものなの?確か、特産品だった気がするんだけど?」

「香辛料ですか?そのスープのことでしたら、普通の家庭でも食べてます」

 普通の家庭で食べてるなら安いはずだ。香辛料は貴重品だ。この品も良いかもしれない。顎に手をやる。

「変わりにこの国にうちの国から輸出できるものあるかしら?流行しそうなものは……」

「あのぉ?」

 アイシャが控えめに声をかけてきた。

「あっ!ごめんなさい。なにかしら?」

「いえ、商人の出なのですか?」

「まぁ、生まれはそうね。今は内政のことを主に……って、えーと……なんでもないわ」

 国同士の利益を考えていたなどと、言ったところで、わけがわからないことを言ってると思われるだけだ。

 商人だったんですねーとアイシャは納得したようだった。のんびり会話していると、ザワザワと部屋の外が騒がしくなってきた。

「第一王妃様のところへ、陛下がいらっしゃったみたいです」

 砂漠の王様のお出ましってわけね。私はこっそりドアの隙間から覗き込む。

「あの……なにされてるんですか?廊下へ出て、お顔を見せてきたらいいんじゃありませんか?」

「部屋からでいいの。王様には私のこと、そのへんの石ころとでも思ってくれればいいのよ」

「ええっ!?陛下に目をとめてもらわなくていいんですかー!?」

「その通りよ」

 私は、この国の王をひっそりこっそり見るのだった。まるで泥と棒かスパイのような姿に後ろにいるアイシャがあきれているのを感じるが、気にいってもらう必要はないので、これでヨシとしよう。
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