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海の国の王と王妃は心をさらけ出す
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私とウィルバート、シザリア王とソフィーの四人でテーブルを囲む。
当初は他にも人が入る予定だったけれど、それはやめた。今、解決するのに一番必要なのは夫婦喧嘩をおさめることだろう。
「だいぶ大きな夫婦喧嘩になったけれど、そろそろ周囲の迷惑を考えて、どうにかしてくれ」
ウィルが姉のソフィーに淡々と言い放つ。シザリア王はまだ悔しげな様子で私とウィルバートを見る時は歯を食いしばり、険悪な顔をしている。
しかしそんな彼も夫婦喧嘩を解決しようと口火を切った。
「……ソフィー、なぜ国から出ていった?王子と共にいなくなるなど、どういうつもりなんだ?」
思いの外、とても優しい声音でシザリア王はソフィーに尋ねた。能面のように無表情にいる彼女はまだ口を開かない。
「俺はソフィーを大事にしているつもりだが、違うなら教えてくれ!何も言わないでいられると、まったくわからない!」
「わからない?」
ソフィーが突き刺さるような冷たい声音で、ボソッと呟くと、シザリア王が一瞬怯む。
「えっ……いや……カイルが毒によって苦しんでいたからか?」
カイルというのが王子の名前らしい。
「毒?」
ウィルバートがピクリと目尻を動かした。
「毒を盛られて起き上がれず、苦しむ我が子に『強くなれ!』って言い捨てるって、どういう神経してるのよっ!」
バンッと机が叩かれる。え?ソフィー!?
「あの……あれっ……?」
私はソフィーの怒る姿に、多少勝ち気だけど気品あるシザリア王妃のイメージが一瞬で吹き飛んだ。横にいたウィルもえっ!?と声をあげている。
だが、シザリア王だけは知っているらしく、まずいこれは……と額を抑えている。
「あのねぇ?わたくしと王子を守るのがあなたの仕事なのよ。おわかりになりまして?」
シザリア王は傷のある頬を困ったようにポリポリ掻く。
「それを言葉一つで一蹴し、突き放すなんて言語道断です!強くなれってあの子はまだ幼いのに……グスッ……ひどすぎるわ!」
そして泣き出した。こんな激しい感情を持っている人だったとは思わなかった。
「ソフィー……」
シザリア王は名前を呼ぶ。
「なんです!?」
「ソフィー……愛してる。帰ってきてくれ!」
「……嫌です。危険すぎます!あなたが守らないならわたくしがあの子を守るしかありません」
プイッとそっぽを向く。
「あの……口を挟むのもなんですけど、何か対応はされたのでしょう?王子に自分で火の粉を払えと言うには、たしかに幼すぎると、私も思います」
私はさりげなく助け舟を出す。ソフィーは王子を守りたいだけなのだから、それが解決すれば帰るはず。
「無論、すでに毒を盛った犯人は見つけて断罪した。『勇敢であれ!』……というのがシザリア王家の教育方針だ」
「勇敢と無謀は違う。毒で苦しむ息子を突き放すのではなく、身を守る方法を教えてやったらどうだ?シザリア王、自らが教えてやればいい」
ウィルの声は静かだが、力があった。シザリア王とソフィーは顔を見合わせた後、ジッと彼を見た。少し冷静になってきたらしい。
ソフィーも感情を爆発させ、吐きたいだけ吐いたようだし……。
「そんな方法もあるか。しかたない。よし!帰って王子を俺のそばにおいて訓練し、王たる者とはどんなものか教えよう!これでどうだ!?」
ガタッと立ち上がるシザリア王。ソフィーはそうですねぇと考えてから、まぁ、80点ですねと言って立ち上がってシザリア王の腕に自分の手を置いた。帰る気持ちになったらしい。
「ん?ソフィー……指輪は?」
「指輪でしたら、海に捨ててしまいました」
「捨てただとーっ!?」
「別にわたくしを愛してるなら構いませんでしょう?」
指輪ってもしかして……私は自分の指にはまっている物をそっと隠した。ソフィーの思惑はわからないが、空気を読んだほうがいい気がした。
「もともと前エイルシア王である父がわたくしに花嫁道具としてくれたものです。シザリアのものではないからどうしようと勝手でしょう?」
「いやいやいや……だが、あれは……」
「もう無いものはないのです!まさかわたくしより指輪が気になるとでも?」
「いやいや!そんなわけないぞ!」
再び夫婦喧嘩になりそうだったけれど、ピシャリと跳ね除けるように言われて焦るシザリア王。また逃げられては厄介だと思ってるに違いない。
「さあ、帰りましょう。ウィルバート、リアン様、ご迷惑おかけしました」
わかりやすく安堵の表情がウィルバートの顔に浮かんだ。
「もう二度と夫婦喧嘩しないでくれ」
「それはどうかしら?あなたとリアンは喧嘩しないの?」
挑戦的に笑った姉の言葉を受けて、私の方に視線を向けたウィルバート。
私とウィルバートは夫婦喧嘩しないでいられるかしら?どうかしら??
ちょっと自信がなくて首を傾げた私を見て彼は頬をひきつらせたのだった。夫婦喧嘩ほど厄介なものはない。
当初は他にも人が入る予定だったけれど、それはやめた。今、解決するのに一番必要なのは夫婦喧嘩をおさめることだろう。
「だいぶ大きな夫婦喧嘩になったけれど、そろそろ周囲の迷惑を考えて、どうにかしてくれ」
ウィルが姉のソフィーに淡々と言い放つ。シザリア王はまだ悔しげな様子で私とウィルバートを見る時は歯を食いしばり、険悪な顔をしている。
しかしそんな彼も夫婦喧嘩を解決しようと口火を切った。
「……ソフィー、なぜ国から出ていった?王子と共にいなくなるなど、どういうつもりなんだ?」
思いの外、とても優しい声音でシザリア王はソフィーに尋ねた。能面のように無表情にいる彼女はまだ口を開かない。
「俺はソフィーを大事にしているつもりだが、違うなら教えてくれ!何も言わないでいられると、まったくわからない!」
「わからない?」
ソフィーが突き刺さるような冷たい声音で、ボソッと呟くと、シザリア王が一瞬怯む。
「えっ……いや……カイルが毒によって苦しんでいたからか?」
カイルというのが王子の名前らしい。
「毒?」
ウィルバートがピクリと目尻を動かした。
「毒を盛られて起き上がれず、苦しむ我が子に『強くなれ!』って言い捨てるって、どういう神経してるのよっ!」
バンッと机が叩かれる。え?ソフィー!?
「あの……あれっ……?」
私はソフィーの怒る姿に、多少勝ち気だけど気品あるシザリア王妃のイメージが一瞬で吹き飛んだ。横にいたウィルもえっ!?と声をあげている。
だが、シザリア王だけは知っているらしく、まずいこれは……と額を抑えている。
「あのねぇ?わたくしと王子を守るのがあなたの仕事なのよ。おわかりになりまして?」
シザリア王は傷のある頬を困ったようにポリポリ掻く。
「それを言葉一つで一蹴し、突き放すなんて言語道断です!強くなれってあの子はまだ幼いのに……グスッ……ひどすぎるわ!」
そして泣き出した。こんな激しい感情を持っている人だったとは思わなかった。
「ソフィー……」
シザリア王は名前を呼ぶ。
「なんです!?」
「ソフィー……愛してる。帰ってきてくれ!」
「……嫌です。危険すぎます!あなたが守らないならわたくしがあの子を守るしかありません」
プイッとそっぽを向く。
「あの……口を挟むのもなんですけど、何か対応はされたのでしょう?王子に自分で火の粉を払えと言うには、たしかに幼すぎると、私も思います」
私はさりげなく助け舟を出す。ソフィーは王子を守りたいだけなのだから、それが解決すれば帰るはず。
「無論、すでに毒を盛った犯人は見つけて断罪した。『勇敢であれ!』……というのがシザリア王家の教育方針だ」
「勇敢と無謀は違う。毒で苦しむ息子を突き放すのではなく、身を守る方法を教えてやったらどうだ?シザリア王、自らが教えてやればいい」
ウィルの声は静かだが、力があった。シザリア王とソフィーは顔を見合わせた後、ジッと彼を見た。少し冷静になってきたらしい。
ソフィーも感情を爆発させ、吐きたいだけ吐いたようだし……。
「そんな方法もあるか。しかたない。よし!帰って王子を俺のそばにおいて訓練し、王たる者とはどんなものか教えよう!これでどうだ!?」
ガタッと立ち上がるシザリア王。ソフィーはそうですねぇと考えてから、まぁ、80点ですねと言って立ち上がってシザリア王の腕に自分の手を置いた。帰る気持ちになったらしい。
「ん?ソフィー……指輪は?」
「指輪でしたら、海に捨ててしまいました」
「捨てただとーっ!?」
「別にわたくしを愛してるなら構いませんでしょう?」
指輪ってもしかして……私は自分の指にはまっている物をそっと隠した。ソフィーの思惑はわからないが、空気を読んだほうがいい気がした。
「もともと前エイルシア王である父がわたくしに花嫁道具としてくれたものです。シザリアのものではないからどうしようと勝手でしょう?」
「いやいやいや……だが、あれは……」
「もう無いものはないのです!まさかわたくしより指輪が気になるとでも?」
「いやいや!そんなわけないぞ!」
再び夫婦喧嘩になりそうだったけれど、ピシャリと跳ね除けるように言われて焦るシザリア王。また逃げられては厄介だと思ってるに違いない。
「さあ、帰りましょう。ウィルバート、リアン様、ご迷惑おかけしました」
わかりやすく安堵の表情がウィルバートの顔に浮かんだ。
「もう二度と夫婦喧嘩しないでくれ」
「それはどうかしら?あなたとリアンは喧嘩しないの?」
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