天才と呼ばれた彼女は無理矢理入れられた後宮で、怠惰な生活を極めようとする

カエデネコ

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彼女と彼の話は噛み合っているか?

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「ウィル!久しぶりね。長い間、来なかったじゃない!」

 新しく私塾にきたウィルというお坊ちゃん的な空気を纏う彼は久しぶりに来たと思ったら、影がある難しい顔をしている。基本的には呑気なウィルなのに、ごく稀にこんな時がある。

「うん……まぁね。家の中が落ち着かなくてね」

 言いたくなさそうなので、それ以上聞かないほうが良いと判断する。

「リアン、ずいぶん難しい本を読めるようになってるんだね。なかなか君の年齢で興味を持つ人はいない本だよ……それ……」

 手にしてる本は分厚く、確かにそうかもしれない。一般的な女の子とはズレてる読書傾向かも。

「でもカッコいいのよ!憧れの軍師様のことを隅々まで調べてるところなの。フフフ。推せるわ!」

「その笑い方、怖いなぁ。推しの軍師とか参謀とか……あんまり言わない気がするんだけどね?まあ、楽しそうだからなによりだよ」

 ウィルはオタクと天才の違いってなんだろ?とブツブツ下を向いて、呟いている。そして、ふとウィルは顔をあげた。

「リアンに聞きたいんだけど、リアンの家に蛇がいるとしたら、どうやって追い出す?」

「蛇!?箒でぶっと………箒で叩き出すわよ」

「ぶっとばすって言いかけて、叩き出すって言い直しても……あんまり口が悪いのは変わらないけどね」

 半眼になるウィル。だって、私、一応お嬢様なんだし、気を使ってみたのよと、肩をすくめた。あんまり意味なかったけど。

「じゃあ、ぶっとばせないときは?その蛇は狡猾で周りの人を蛇の魅力で虜にしてるときはどうする?」

 蛇、気持ち悪くない?虜にしないと思うけどと笑いかけて止める。ウィルが真剣な顔をしている。そして表情は笑みで隠しているものの、顔色は青白く、手が震えている……これは蛇の話なの?それとも……私はしばらく無言になって考える。

「……そうね。籠を作ってあげたらどうかしら?蛇を退治できない、追い出せない。それなら専用の籠を作ってあげると良いわ。飼い殺す……それも1つの手じゃないかしら?」

 ウィルの目が見開く。そして普段、見せないてあろう挑発的な笑みを浮かべた。その表情になぜか胸騒ぎがする。穏やかさが一瞬消えていた。

「なるほどね。さすがリアン」

 すぐにいつもの表情に戻る。

「ウィル、あなた……何か困ってるんじゃないの?」

 事件に巻き込まれているのかしら?大丈夫なの?とジッと物言いたげに見つめてみたけれど、ウィルは先程の激しい感情が垣間見えたことはなかったように穏やかに何もないよと笑うのだった。気づかないふりをしてあげた方が良いようだった。

 しばらくして、ウィルは言った。

「家の蛇は籠の中に入れることができたよ。ありがとうリアン」

 本当にそれは蛇だったのだろうか?
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