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手に入れるものは何もなくても
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「お嬢様?今のお話は……」
アナベルが心配そうに私を見る。
「聞こえちゃった?アナベル、私の身代わり大変だったわよね。ありがとう。危険手当を出さなきゃね」
「ふざけてる場合ではありませんよっ!まさか陛下は本気なんですか!?り、離縁するなんて……リアン様は命を賭けて、ウィルバート様やこの国をお守りしたのに!?」
「その命を賭けたことにウィルバートは怒っているのよ」
お水ちょうだいと喉が乾いていてるので、水を貰って飲み、潤す。
「落ち着いていらっしゃいますね。これも想定内だったんですか!?」
「終わって気づいたら、ウィルバートはすっごく怒ると思ったのよ。殴られて離縁かと……でも殴らなかったわね」
お嬢様ーっ!とアナベルが非難の声をあげる。
「冷静に言ってる場合ですか!?」
「戦には賭けるものが必要なのよ。私は私しか差し出せる物がないのよ」
本当はずっと怖くて怖くて……夜も眠れず食欲も出なかった。何度も何度も頭の中で作戦を考えて検証していた。成功するとは思っていた。自信もあった。でも確証はない。実際に戦用の策を使うのは初めてだったし、こちらが不利だから、いくつも出し抜かなければならなかった。
少し疲れてしまった。私は頭痛がして、痛みで目を閉じる。
「お嬢様、大丈夫ですよ。きっとウィルバート様は落ち着けば考え直しますよ。今はゆっくり体を回復させてください」
そう言って、アナベルは薬を置き、私の額の汗を冷たいタオルで拭いてくれる。
「明かり、消してくれる?」
かしこまりましたとアナベルは消して部屋から出ていく。何かあれば呼んでくださいと、ベルを枕物に置いてゆく。
私は目を閉じた。体がだるい。頭が痛い。
師匠に会ったとき言われていたことがあった。
『リアンがその戦略をウィルバートに授けるのは良い。しかし失敗して責任をとるのもウィルバートか?』
いいえと私は答えた。王妃の代わりはいくらでも探せる。王は唯一無二でしょう?と。
『わかっているなら良い。それならば力を貸そう』
師匠もまたその事を心配していた。ウィルバートは絶対に賭けてはいけないのだ。キングを失くしたら、その国は終わり。私ならば……変わりは何人でもいる。でもウィルバートにとっては……私はたった1人なのだ。だからあそこまで怒ったのよね。
ウィルバート……怒らせてごめんね。気づいてしまった時、彼がどんなに傷つき、自分を責めるかわかっていた。
そしてその事から私と離縁しようとすることも。普通に生きる道を与えようとしてくれることもわかっていた。
でもどうしようもなかったの。私はあなたを守りたかったの。
ポロポロと次から次へと涙が溢れてゆく。熱のせいなのか涙もろくて嫌だ。覚悟は決めていたじゃないの。ちゃんと予想していた。そのとおりになっただけ。泣くのは変でしょう?
例え離縁されても、例え傍にいれなくなっても……ウィルバート、私はあなたのこと、ずっとずっと愛してるわ。
私はウィルバートの心を手に入れるための策は考えない。先のことも読みたくない。見たくない。
疲れ切っていた私は涙を流したまま気づけば眠ってしまっていた。
アナベルが心配そうに私を見る。
「聞こえちゃった?アナベル、私の身代わり大変だったわよね。ありがとう。危険手当を出さなきゃね」
「ふざけてる場合ではありませんよっ!まさか陛下は本気なんですか!?り、離縁するなんて……リアン様は命を賭けて、ウィルバート様やこの国をお守りしたのに!?」
「その命を賭けたことにウィルバートは怒っているのよ」
お水ちょうだいと喉が乾いていてるので、水を貰って飲み、潤す。
「落ち着いていらっしゃいますね。これも想定内だったんですか!?」
「終わって気づいたら、ウィルバートはすっごく怒ると思ったのよ。殴られて離縁かと……でも殴らなかったわね」
お嬢様ーっ!とアナベルが非難の声をあげる。
「冷静に言ってる場合ですか!?」
「戦には賭けるものが必要なのよ。私は私しか差し出せる物がないのよ」
本当はずっと怖くて怖くて……夜も眠れず食欲も出なかった。何度も何度も頭の中で作戦を考えて検証していた。成功するとは思っていた。自信もあった。でも確証はない。実際に戦用の策を使うのは初めてだったし、こちらが不利だから、いくつも出し抜かなければならなかった。
少し疲れてしまった。私は頭痛がして、痛みで目を閉じる。
「お嬢様、大丈夫ですよ。きっとウィルバート様は落ち着けば考え直しますよ。今はゆっくり体を回復させてください」
そう言って、アナベルは薬を置き、私の額の汗を冷たいタオルで拭いてくれる。
「明かり、消してくれる?」
かしこまりましたとアナベルは消して部屋から出ていく。何かあれば呼んでくださいと、ベルを枕物に置いてゆく。
私は目を閉じた。体がだるい。頭が痛い。
師匠に会ったとき言われていたことがあった。
『リアンがその戦略をウィルバートに授けるのは良い。しかし失敗して責任をとるのもウィルバートか?』
いいえと私は答えた。王妃の代わりはいくらでも探せる。王は唯一無二でしょう?と。
『わかっているなら良い。それならば力を貸そう』
師匠もまたその事を心配していた。ウィルバートは絶対に賭けてはいけないのだ。キングを失くしたら、その国は終わり。私ならば……変わりは何人でもいる。でもウィルバートにとっては……私はたった1人なのだ。だからあそこまで怒ったのよね。
ウィルバート……怒らせてごめんね。気づいてしまった時、彼がどんなに傷つき、自分を責めるかわかっていた。
そしてその事から私と離縁しようとすることも。普通に生きる道を与えようとしてくれることもわかっていた。
でもどうしようもなかったの。私はあなたを守りたかったの。
ポロポロと次から次へと涙が溢れてゆく。熱のせいなのか涙もろくて嫌だ。覚悟は決めていたじゃないの。ちゃんと予想していた。そのとおりになっただけ。泣くのは変でしょう?
例え離縁されても、例え傍にいれなくなっても……ウィルバート、私はあなたのこと、ずっとずっと愛してるわ。
私はウィルバートの心を手に入れるための策は考えない。先のことも読みたくない。見たくない。
疲れ切っていた私は涙を流したまま気づけば眠ってしまっていた。
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