上 下
48 / 257

外交は鉄壁のほほえみを浮かべて

しおりを挟む
 私達の国は穏やかな気候で、資源、山、平野、海があり恵まれた地である。

「はじめまして。コンラッドと言います。ウィルバート……陛下とは旧知の中で、王太子時代から仲良くさせてもらっています。話に聞いていたより、実物のほうが可愛い王妃ですね。ウィルバート陛下より先に出会っていたら良かったです。残念ですよ」

 可愛い?気さくな方ね。私はあら……と言って、右頬に手をやり、頬を赤らめてみせる。

 白銀の髪に琥珀色の目をした彼は美形で、かつ王子としての気品もある。こんなふうに言われたら大半の女の子は勘違いしそうだ。
  
「はじめまして、リアンと申しますわ。陛下のご友人と聞きまして、お会いすること楽しみにしておりましたのよ」

 定型文のご挨拶をする。教科書どおりのお辞儀。小さく微笑みを浮かべ柔らかい物腰を心がける。どこから見ても普通の完璧な王妃。

「人の妻を口説かないでくれ。お祝いしに来てくれたんだろ?」

 ウィルバートは王の仮面を被っているが、仲が良いらしく、いつもよりは仮面をずらしていて、どこか優しげな雰囲気がする。

「別に口説いているつもりはないんですよ。本当に心から言っているんです。王妃様」

 ありがとうございますと嬉しい顔をしてみせる私。

 ……そろそろ顔の筋肉疲れてきたわね。頬の筋肉が休憩したいって言ってるわ。

「夕食もご一緒できるのかな?」

 えええーっ!!そろそろ昼寝タイムに入りたいんです!

「もちろんですわ。ぜひコンラッド殿下の国のお話をうかがいたいですわ」

 リアン、耐えるのよ。完璧な王妃を演じるのよ。ウィルバートにはバレてるらしく、隣で肩を震わせて笑いを堪えている。

「ん?ウィルバート、どうしたんですか?」

「いやいやいや、なんでもない。コンラッド、気にしないでくれ」

 ウィルバート!と私は半眼になりかけるが、鉄壁の微笑みというスキルを発動させて耐えに耐える。

 すぐに夕食の時間はやってくる。女の子の準備は長いのよ!時間かかるのよーっ!

 ゆっくりお風呂。肌の手入れ、ドレス、装飾品をあれじゃない!これじゃない!と選び、ウィルバートが今日の服は青色だから、私も青いドレスにしようとか……。

「お昼寝しようと思ったのに……」

「お嬢様、諦めてください」

 アナベルがそう言って私の金色の髪を流行りの結い方でセットしていく。

 コンラッド殿下の国は私達の国よりも2倍も国土のある大きい国なのだ。仲良くしておく必要がある。

 ウィルバートの統治する国は穏やかな気候で、資源、山、平野、海があり恵まれた地である……だから。我が国を虎視眈々と狙っている国はいくつか存在する。

 仲良くしておいて損はない。私の昼寝と引き換えに平和のために働こう。大きい代償だけど。

「お嬢様、ウィルバート様がもうすぐいらっしゃいますよ。ほらほら。笑顔ですよ!」

「今日の分の笑顔の容量は使いきっちゃったの。もう笑えないわ。怠惰に過ごして充電しなきゃ、無理よー!」

「演技してるからだろ?なんでそんな演技してるんだい?いつもより大人しいしさ」

 ガチャッと不遠慮にウィルバートがドアを開けて入ってきた。

「ま、また!ノックしなさいよって言ってるじゃなーいっ!」

「廊下まで聞こえるんだよー。ほら、王妃様。お手をどうぞ」

 ウィルバートが手を差し出す。エスコートしてくれる。

「コンラッドとオレは幼い頃からの付き合いだから、もう少し肩の力を抜いて付き合っても大丈夫だよ。なんでリアンは教科書どおりの王妃様を演じているんだい?」

 疲れるだろとウィルバートが言う。私はいろいろあるのよと言葉を濁した。

「まあ、別にいいかー。オレにだけ本当のリアンを見せてくれていればいいんだ。むしろ見せなくていいよ」

 ウィルバートはそれ以上追求せず、むしろ満足!とばかりに言うのだった。

「何言ってるのよ……」
 
 呆れたように私がいうと、ウィルバートは顔をしかめてみせた。

「あの顔を赤くなる仕草とか、演技とわかっていても嫌だった。オレだけにしてほしい」

 私はウィルバートの言葉に赤くなる。これは演技ではない……その私の表情の変化を優しく青の目で見つめる彼に私は慌てて言う。

「もうっ!夕食会へ行きましょっ!」

「お嬢様も陛下も相変わらず、仲がよろしくてなによりです」

 アナベルが私とウィルバートのやりとりをにこやかに見守っていたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

冷淡だった義兄に溺愛されて結婚するまでのお話

水瀬 立乃
恋愛
陽和(ひより)が16歳の時、シングルマザーの母親が玉の輿結婚をした。 相手の男性には陽和よりも6歳年上の兄・慶一(けいいち)と、3歳年下の妹・礼奈(れいな)がいた。 義理の兄妹との関係は良好だったが、事故で母親が他界すると2人に冷たく当たられるようになってしまう。 陽和は秘かに恋心を抱いていた慶一と関係を持つことになるが、彼は陽和に愛情がない様子で、彼女は叶わない初恋だと諦めていた。 しかしある日を境に素っ気なかった慶一の態度に変化が現れ始める。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

溺愛されたのは私の親友

hana
恋愛
結婚二年。 私と夫の仲は冷え切っていた。 頻発に外出する夫の後をつけてみると、そこには親友の姿があった。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

処理中です...