天才と呼ばれた彼女は無理矢理入れられた後宮で、怠惰な生活を極めようとする

カエデネコ

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努力は見えないものだから

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 ウィルは超多忙な王様だった。図書室へ来ていたのも、睡眠時間を削って、会う時間を作っていたらしいとクロードから聞いた。

「なんだか、私だけが、まったりと怠惰に過ごしてて、申し訳ないわね~」

「そう言っていられるのも、そろそろ終わりでしょう?お嬢様、王妃様になられるのなら、その教育が始まります」

「な、なると決めてないわよ!」

 アナベルが諦めてくださいと動揺を隠せない私を見て、笑った。

「小さい頃からお嬢様にお仕えしてますが、本当はウィル様のこと、嫌じゃないでしょう?むしろウィル様が陛下で良かったじゃないですか」

 うっ……と言葉に詰まる。

「失礼いたします。本日の昼食を陛下が共にどうか?と言っておられますが、どうしますか?」
  
 護衛騎士のセオドアがやってきた。無口で表情をあまり出さず、銀髪でグレイの目は少し冷たさを感じさせる。

「えーと……」

 怠惰に過ごしたい私が断りかけるとピクリとセオドアの頬が動く。

「まさかお断りになりませんよね?」

 私が言いかけた言葉を飲み込むと、セオドアは、ハァ……と重々しいため息をついた。

「リアン様。陛下は後宮外もわたしと共にならば見て良いと言っておられます。どうぞ行ってみませんか?この時間、陛下は騎士団で訓練されているはずです」

 無口な彼がここまで喋ったのは初めてだ。私は驚いて、ええ……と頷くしかなかった。

 王宮内はとても広かった。ちらりと見えた中庭は花が咲き誇り、後宮の庭と同じくらい素晴らしい。噴水の水がキラキラと光を反射していた。似たようなドアがいくつも並び、細い廊下を通る。私は帰り道に困らないようにと王宮内の地図を頭の中に描いていく。
 
「なるべく人目につかない道を行っています。陛下はあなたをあまり他の男の目に触れさせたくない!と言っていましたので……」

 複雑な道を通っていくわねと考えていた私の思考に気づいたのか、セオドアはそうボソッと言う。

 ……ウィル、どんな命令出してるのよ!?と、私の顔がひきつる。

しばらく歩いていくと騎士団の区域内へきたようで、賑やかになった。

 金属音や掛け声が聞こえてくる。騎士たちが真剣に剣や槍を持ち、訓練中だ。その中にウィルがいた。構える姿は気迫があり鋭い目をしている。

 四人がウィルを囲んでいる。手には演習用の木刀。

「まさか陛下相手に複数で勝負をするの!?」

「陛下はなかなかの剣の使い手です。手を抜けるほど楽な相手ではありません。蛮族平定した時も自ら剣を振るってます。とりあえず見てください。素晴らしいですよ」
  
 表情を動かさず、淡々とセオドアは言った。ウィルの訓練が始まった。一斉に飛びかかってくるのを無駄な動作なく、軽やかに避けると剣で相手の刃を受ける。弾いて素早く次の動作へとうつる。鋭い突きを繰り出した。

 ウィルの攻撃で一人がうめき声をあげて倒れる。クルリと反転し、上段から剣を振り下ろす。滑らかな動きに力強さのある戦い方に私は目を奪われる。

 強い……素人の私でもわかる。私はウィルが使う魔法ならば私塾で、見たことがあった。剣まで扱えたなんて知らなかった。

 相手が残り一人になった瞬間、ウィルの右後ろから刃を振り下ろされる。思わず私は叫んだ。

「危ない!ウィル!」

 私の声にハッとしたウィル。それが隙になるかと思いきや……スッと避けてガシッと相手の腕を掴み、蹴りを入れた!

 強い……私は息を呑む。

 全員、地面に伏した……そして先程の鋭い雰囲気のウィルはスッと消えて、にーーっこりと輝くような笑顔を私に向けた。

「リアーーーン!一緒にお昼食べよう!」

 ハイと頷くしかない私をクスクスとアナベルは笑い、セオドアはいつも無表情なのにプッと吹き出して肩を震わせている。

 私にウィルが強い王であるために、努力する姿をセオドアは見せたかったのかもしれない。陛下想いの良い臣下だわと思ったのだった。
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