天才と呼ばれた彼女は無理矢理入れられた後宮で、怠惰な生活を極めようとする

牢の中での戦い

「食事だ」

　1日2回しかない食事を渡される。小さいパンに具のないスープ、そして水。

「待って……アナベル……」

「ま、またですか！？お嬢様……でも……」

　食べるなと私は合図した。警備兵がいなくなる。その後に私は食事のお盆に触れる。

「少しずつ体を蝕む毒が入ってるわ。随分、シエラ様は毒にお詳しいようね」

　そう言って、私は皮肉げに口の端をあげて笑う。

「お、お嬢様……食べないでおきましょう」

「水を飲まないと人は死ぬわよ。魔法で解毒するわ」

　アナベルが私の手を掴む。

「だめです。この魔力を封じる牢の中ではお嬢様の体に負担がかかります！」

　この魔力を封じられた中で魔法を使えること自体がすごいと褒めてほしい。確かに無理矢理使っているから、私自身への負担が酷く、消耗が激しい。

　しかし……水と食べ物を摂取しないと人は生きられない。それともウィルが陛下に伝えて釈放される時間を逆算して、毒と知っていて食べるか？口にしないか？

　陛下は後宮の争いにどのくらい興味を持つだろう？新人騎士のウィルの言葉を信じるだろうか？

　私は迷い、思考し、解毒することを選ぶ。まだ私の力をは使える。ギリギリまでこの作戦でいこう。なにより……アナベルは無関係なのだ、ここから無事に出してあげたい。

　お盆に触れ、解毒の術を施す。

「お止めください……」

　ポロポロとアナベルが泣き出す。私の呼吸が乱れる。寒い牢の中なのに汗が吹き出す。ぐらりと体が傾いた。

　支えるアナベル。……大丈夫と言葉にできず、しばらく私はじっとする。

「こんなこと続けていたら、お嬢様のほうが先に参ってしまいます！」

　汗を手の甲で、拭う。ふぅと息を整える。

「もう少し体力作りをしておくんだったわ……怠惰に過ごしすぎたかしら？」

　私は心配するアナベルに冗談を言ったつもりだったが、彼女は笑わなかった。

　食事を四回もらったから、2日経った。あと少しだと……思いたいわ。ウィルを頼るなんて危険なことだったかもしれない。彼と私の繋がりがバレたら彼になにか疑いがかかるかしら？他にも何か策をたてる必要があるかしら？

　だめだわ。こんな場所にいるからマイナスのことしか考えられない。

　日に日に重くなる自分の身を感じて、このままいくと……動けなくなるのはいつからだろうか？と考えるのだった。

　その次の日の夜に私は体を起こせなくなった。
　
「お嬢様、少し召し上がってください」

「アナベルが食べて……水だけちょうだい」

　私は壁に体を持たれ掛ける。無理をして魔法を使いすぎたか……とりあえず、ここまでは生き延びた。あとどのくらいだろう。

「もう一度、話を聞いてもらえるように頼みます！」

　アナベルが私の口へ水を入れる手は震え、泣いている。３日たった。そろそろだ。私は希望を待つ。

　ウィル！早くここに来て！

　彼に頼ることはためらう気持ちもあったが、助けに来てくれるのは……他の誰でもなく、ウィルの顔しか思い浮かばなかった。