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待ちわびる時

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 ゼキ=バルカンが久しぶりに屋敷の方へ顔を出した。無愛想なハリトも相変わらずだった。

「あの可愛いセイラが母になるとはね☆」

 執事のクロウがお茶を出し、ニコニコする。

「楽しみですよねぇー」
 
「本当だよ☆なんだか僕までどんな子なのか楽しみでさ!おじいちゃんになる気持ちだよ」

 ガチャッと仕事を一段落させたリヴィオがドアを開けて入ってきて、聞こえていたらしくゼキにハハッと笑う。

「年齢的にはもうおじいちゃんだろ!?」

「その小憎らしい言い方、シンにそっくりだよ☆」

 リヴィオのことをシンヤ君の転生者とはいまだに知らないが、何か関係しているのではないか?と勘がいいゼキなら気づいていそうだ。

「そうそう!こんな面白いものを持ってきてあげたんだ☆」

 ゼキ=バルカンがノートを出してきた。

 『航海日誌』って書かれている?

 ガタンッと椅子の音が鳴る。顔色を変えて、立ち上がったのはリヴィオだった。

「おいっ!やめろ!それを寄越せっ!」

 ゼキから奪おうとしたが、それより早くハリトがサッとノートを受け取って避けた。ゼキが面白そうにリヴィオを見た。

「んー?この中身、君は知ってるのかい?これはシンの書いた日誌なんだけどなあー☆」

 ……絶対、なんかわかっていて、からかってるよねと思う。リヴィオがイライラする。

「人の日記を読むなんて悪趣味だろ!?」

「ハッハッハ!大丈夫だよ☆セイラにあげるからね。大事なお祖父様のものだからね☆リヴィオには関係ないだろうー?」

 なお悪い!やめろー!とリヴィオが叫んでいる。むしろこんなに動揺するなんて、何が書かれているんだろう?

「何が書いてあるの?」

「それはセイラの目で確かめなよ☆今の君に必要なものだと思って持ってきたんだ」

 今の私に必要なもの?と私は首を傾げながら、ノートを受け取る。リヴィオの顔を見た。……顔が赤い?

「リヴィオ読んでも良いの?」

 えーと……うーん………とリヴィオは唸り声をあげて、迷っているが、上を向き……私に向って頷いた。

「好きにしろ……」

 そう言って……部屋から出ていった。ゼキがクスクスと笑い、ハリトも苦笑している。

「なんでリヴィオがあんなに動揺するのかは知らないけど、笑えるねぇ☆」
 
 ゼキは完璧にリヴィオの動揺する姿を面白がっている。

 私はパラパラとめくってみた。天気、気温、風、波……船の上で釣りをした釣果。他愛無いことしか書いてない。ピタッと長々と書いてあるページに手が止まる。

『もうすぐセイラの誕生日。プレゼントを渡したいが、戻れない。今度の休暇に埋め合わせしたい』

『まだ幼いセイラが気になる。ちゃんと家族の愛情を貰えているのだろうか?』

『学園にいれたが、元気にしているか気になる』

 ……これって?お祖父様が私のことを気にかけてくれていたことがわかる文が時々、出てきていた。

 一人ぼっちだと思っていた日々だったけど、お祖父様が時々くれる愛情は私を救ってくれていた。それで十分だと思っていたのに………航海をしている時も私のことを思い出してくれていた。

「シンはほんとに孫娘を大事にしていたよ。君がその愛情を感じられると良いなと思って、持ってきたんだ。どうかな?今の君に必要なものだっただろう?」

 私は涙を堪えて、ゼキにありがとう……とお礼を言った。

「コロンブスはもうそろそろ春になって、また航海に出る。セイラ、今度帰ってきたら可愛い子をみせておくれ☆お土産持って会いに来るよ☆」

「待っています。安全な航海を祈ってます」

「ありがとう☆」

 そう言って目を細めて笑うゼキ=バルカンはハリトを連れて、また大海原へと旅立って行った。

 リヴィオのところへ顔を出す。私の方を見ない。スタスタと私は近づいていき、ギュッと彼を抱きしめた。

「日記を開かせてくれて、ありがとうリヴィオ」

「あの日記はオレだけどオレじゃない!シンが書いたんだ。オレはおまえの……」

 わかってると私は笑い、ずっと変わらない愛情をくれてありがとうって意味よと伝えたのだった。

 うん……と頷くリヴィオは顔が赤かった。
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