上 下
261 / 319

練習しても無理なら発想でカバーする

しおりを挟む
 秋の清々しい空。青い空が高く感じる。チリンチリンとベルを鳴らして、私は『花葉亭』に自転車出勤した。歩いても近いけど、たまに乗りたくなるのよね。帰りに湖一周しても気候的に気持ちいいかもしれない。

「えー!なにそれ!すっごくすっごく楽しそうなんだけどー!」

 玄関のドアを拭いていたミラが駆け寄ってきた。

「自転車ってやつよー。けっこう便利だとおもうけど、私とリヴィオ以外は乗らないかな……練習がいるの」

 やってみたい!とミラは意欲的に自転車に乗って見るが……。

「足がつかないーっ!バランスがいるのね……。うわっ!待って!後ろの手を離さないでー!動かしてはだめ!」

 私が後ろで支えている状態でしばし待つ。動かしてはだめってどうしたらいいの!?戦闘訓練受けてる神官なんだし、運動神経はバツグンだと思うから、少し練習すればいける気がするけど……サイズが問題なのかしら?

「トトとテテに小さい自転車作ってもらう?」

「うーん……うーん……」

 悩んでる。

「悔しいから、ちょっと練習してみるわ!」

 負けず嫌い。

「そう……怪我には気をつけてね」

 ミラの性格が、微妙に私に似てる気がした。

 しばらくして、トトとテテがミラの自転車の練習風景をたまたま見かけたらしい。

「え?フリッツが!?練習に付き合ってるの!?」

 私とリヴィオの監視者兼護衛と言われて騎士団から派遣されてる彼はすっかりナシュレに馴染んでいて、本来の目的を最近忘れている。

 リヴィオに近寄れば、こき使われるので、避けてるのかもしれないが……。

「乗れそうだった?」

 トトとテテは顔を見合わせて苦笑した。

『ぜーんぜんなのだー!』

 そ、そう……無理なのね……。

「預かってる身としては、怪我をさせると、キサに申し訳ないわ」

 信頼して預けてくれてるのだからと、親戚の子を預かってるような気持ちになる。
 
「うーん、それなら良い考えがあるのだ!」

「改造するのだ!」

 え?と私が疑問符を浮かべていると双子ちゃんはクスクス笑いながら工房へと消えた。

 その数日後だった。

「セイラー!見てー!」

 自転車に乗るミラが余裕で手を振っている。

「うわー!頑張ったわね!乗れた………乗れた………乗れてない?」

 トトとテテがフフンと笑った。

「この形なら心配ないのだ!」

「子供でも練習無しなのだ」

 こ、これは三輪車!?後ろに二つタイヤがあり、前に一つ。おじいちゃんおばあちゃんが乗ってるものに似てるような?と心の中で思う私だった。でもデザイン性はともかく、こっちのが安全性はある。

 確かに、練習しなくても、皆が気軽に乗れ、楽しめる物の方がいいよねと思い、私はオシャレ感は捨てるところだと思い、言葉を飲み込んだ。

 しかし『皆が乗れる物』それはとても大事だったらしく、三輪車タイプはその後に流行ったのだった。

 ミラとトトとテテのおかげで、湖の周りを他の人達もサイクリングする楽しい姿を見かけるようになった。

「フッフッフッ!私は先見の明があったわね!」 

 得意げなミラだったが、私は知っている。

 もう練習飽きた!もう嫌!練習無しでいけるやつを作って!とトトとテテの工房に駆け込んだことはどうやら内緒らしく私には言わない彼女だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います

榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。 なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね? 【ご報告】 書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m 発売日等は現在調整中です。

【完結】間違えたなら謝ってよね! ~悔しいので羨ましがられるほど幸せになります~

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
「こんな役立たずは要らん! 捨ててこい!!」  何が起きたのか分からず、茫然とする。要らない? 捨てる? きょとんとしたまま捨てられた私は、なぜか幼くなっていた。ハイキングに行って少し道に迷っただけなのに?  後に聖女召喚で間違われたと知るが、だったら責任取って育てるなり、元に戻すなりしてよ! 謝罪のひとつもないのは、納得できない!!  負けん気の強いサラは、見返すために幸せになることを誓う。途端に幸せが舞い込み続けて? いつも笑顔のサラの周りには、聖獣達が集った。  やっぱり聖女だから戻ってくれ? 絶対にお断りします(*´艸`*) 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/06/22……完結 2022/03/26……アルファポリス、HOT女性向け 11位 2022/03/19……小説家になろう、異世界転生/転移(ファンタジー)日間 26位 2022/03/18……エブリスタ、トレンド(ファンタジー)1位

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

妹だけを可愛がるなら私はいらないでしょう。だから消えます……。何でもねだる妹と溺愛する両親に私は見切りをつける。

しげむろ ゆうき
ファンタジー
誕生日に買ってもらったドレスを欲しがる妹 そんな妹を溺愛する両親は、笑顔であげなさいと言ってくる もう限界がきた私はあることを決心するのだった

処理中です...