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紫陽花の咲く道

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 カンカンカンと踏切の音がなった。傘に雨が落ちてくる。家々の庭先には青、紫、ピンクの紫陽花が咲き、淡い色が雨に濡れてぼんやりとしている。

「今日、暑くてジメジメしてたよね」

 蒸し暑さの中、やっと白と紺色のリボンの夏服のセーラー服へ衣替えした。隣を歩くシンヤ君も白い半袖のシャツになっている。

「まぁ、梅雨だし仕方ないだろ」

 雨は濡れるから嫌だけど、なぜか一人で歩く時よりシンヤ君と歩くと心が明るくなる……しかし、今から、あまり明るくない話題を出す。

「シンヤ君、進路の最終決定したの?」

「前と変わらないな。カホは?」

「できるならシンヤ君と同じところ受けようかなって思ってる。でも無理かもしれない。頑張ってみるけど……」

 思い切った決心を口にした私はチラっとシンヤ君の顔を傘をずらしてみた。

 口元に手を当てている?

「あ……?いや、ごめん、すごく嬉しくて……」

 照れてるシンヤ君はいつも飄々とした少し大人っぽい彼とは違ってて、笑ってしまった。でも自信がないのよねと重いため息をはぁ……と一つ吐いてしまった。

 私は踏切の音を聞きながら、視線を向こう側に移した。カンカンカンカンという警報機の音と共に、遮断器が降りて来る、紫陽花の色と一緒にぼんやりとした輪郭たが、確かに姿が見える。こちらを一瞬だけ見て、くるりと身を翻す長い黒髪の女の……セイラ!?まさか!?

「セイラ!?」

「は!?」

 私は駆け出す。セイラに何かあったんだと直感で思う。シンヤ君が咄嗟に走った私を追いかける。地面に落ちる2つの傘。

 雨が顔に当たる。跳ねる水。私は踏み切りを渡り、向こう側にいたセイラに手を伸ばして掴んだ気がした。その瞬間、バチッと音がして、自分の体が吸い込まれるような感覚がした。

 目を開く。……中世の城内?それとも外国の城?どこなの!?私は一瞬の出来事に目をパチパチさせた。
 
「おいおい……マジか?ここに戻ってくるとか無しだろ!?しかもカホと一緒にかよ!」

 シンヤ君が叫ぶ。気づけば、もう片方の私の腕を掴んだままのシンヤ君だった。

「あ、いたの?」
  
 私の一言にシンヤ君が怒った顔をして、頬を引っ張る。痛いです。とりあえず夢じゃなさそう。

「いたの?………じゃないだろおおおお!?カホ、今、何したんだよ!?異世界に来たことに気づいてないだろ!?ここは……セイラとリヴィオの世界だ」

 私の思考が固まった。え!?

「受験生なのに……まずいわね。私、勉強しないとだめなのに!時間がないのにっ!」

「今、心配するところ、そこかよ!?……カホは、前向きで羨ましいよ」

 シンヤ君が何故か呆れていた。私とシンヤ君の騒ぐ声に気づかれる。警備兵だろうか?集まってきた。

「何者だ!どこからきた!」

 当たり前だけど、怪しい奴らと認定されてしまった。剣を向けられる。私は本物の剣に驚いて、動けなくなった。シンヤ君は慣れたもので、両手をあげて、淡々と話す。

「シン=バシュレだ。陛下または宰相にお会いしたい」

 ざわめく中へ急ぎ足で、やってきたのはイケオジだった!かっこいい!……セイラの記憶が残る私は気づく。宰相でリヴィオの父、ハリーだ。

「どうやって城内に入った!?……いや、シン=バシュレに愚問か。久しぶりだな。生きていたんだな……何をしに来た?」 

「それが、オレにもわからない。もう一人のオレ………いや、リヴィオはどこだ?セイラは?何か、この世界で、起きてないか?」
 
 ハリーが苦笑した。

「相変わらず、いちいち勘が良い男だな。陛下にシン=バシュレが帰ってきたと伝えよう」

 そう言うと宰相はこっちへと案内してくれた。陛下に会えるように取り計らってくれるらしい。

「記憶だけじゃなくて、すごい!ほんとにセイラのいる世界へ来てしまったわ。私も魔法とか使えちゃう?かっこいいリヴィオにも会ってみたいわね!」

「おまっ、おまえっ!……ほんとにいい性格してるよな!?もう少しネガティブなこと考えないのかよ!?戻れなかったらどうしようとか!?」

 戻れなかったら……私はそうね。と笑う。

「シンヤ君と一緒なら、どこでもいいわ。戻れなかったら、セイラの温泉旅館で働かせてもらう?」

「嬉しいセリフなのに、なぜか現実的な就職先まで考えてるカホがすごすぎて、感動しにくいよ」  
 
 シンヤ君が額に手を当てる。え!?なんか私、変なこと言った!?

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