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命を天秤にかけられるか
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トーラディム王国のサニーサンデーの支店では、夏の暑さのおかげで、とぶようにアイスクリームが売れていた。アイスクリーム屋さんを出店してみたら、嬉しいことに、ここの国の人達にもとても気に入ってもらえた。
王宮内のお風呂も完成し、数日前にトーラディム王が試しに入ってみたら、ナシュレの温泉と遜色なくて、すごく癒やされると喜んでいたらしいと聞いた。
「温泉、喜んで貰えてよかったわ」
「陛下、久しぶりに無邪気に笑ってたわ。彼の本心からの笑顔はなかなかレアなのよ。私はこのアイスクリーム屋さんが嬉しいわ!夏に最高ね!仕事後にも、よく来てるのよ。全種類制覇しちゃう!」
ミラが隣で、これはさっぱり美味しい!と、サニーサンデーの夏季期間限定のソーダ味のアイスクリームを口にする。私は少し酸味のあるいちごの果実が入ったストロベリー味のアイスクリームだ。サニーサンデーの前に作られたテラス席で食べている。先程から、お客さんが絶えず、アイスケースの前に並んでいた。
平和そのものだった。
嵐の前の静けさだろうか?
……そう、私の予感は当たった。こんな時、当たって欲しくないのに当たってしまう。
少年が後ろに手を組みながら、とても自然にアイスクリーム屋に買いに来たお客さんのようにいつの間にか立っていた。
「よくもこないだはやってくれたね」
平和な風景とはかけ離れた、憎々しげな表情で、言葉を放ってきた。
「それはこっちのセリフだわ。ナシュレを破壊したのは許せないわ」
始まってしまった。ここから始まる。自分の心臓の音がドキドキと緊張感からしてくる。
「あーあー、残念。せめてアイスクリーム食べてからにしてほしかったわ」
ミラが最後まで、食べそこねたと言いつつ、アイスクリームを置いた。全員呼び集めるつもりだ。スッと自然な形で彼女は立ち上がって、構えた。
少年、ガルディンは私を指差す。
「ここで魔物を呼び出せばトーラディム王国の王都はめちゃくちゃになる。民も死ぬよ。どうする?」
「どうする?って、脅してるの?何がしたいのよ?」
ミラが相手を睨み、私を庇うように前へ出た。
「そいつをくれるかな?くれたら、ここに、魔物を放つのは止めてあげる。連れて行きたいところがある」
「わ、私を!?」
ガルディンは私を望む。
「渡すと思ってんの!?」
ミラがそう言うと、少年の姿をし、ずっと生き続けてきた彼は狂気じみた笑みを浮かべた。
「ここの王都の民とどっちをとるの?もし一緒に来ないなら、王都に獣を放つ」
「なんであなたは同じように、悲しむ人を作ろうとするのよ!愛する人を失って悲しむのは皆、同じでしょう!?ここにいる人たちだって同じなのに!」
私は夢で光の鳥が見せたことを思わず口にする。その反応は絶大なものだった。
「おい?何を知っている?何を見た?」
目が怒りで、赤く染まる。手を伸ばされる。ミラがセイラ!と叫ぶ。
「ミラ、ここで魔物を発生させるわけにはいかないわ!先に行ってみるわ」
ダメ!と言うミラの叫ぶ声は遠くなる。黒い空間に引きずりこまれた。視界が揺らぐ。
「ここは……?」
「優しいことだな。他国の民まで思いやって、一緒に来るなど……自分の命が惜しくないのか?」
ガルディンが暗い光の無いところどころ破壊された広間でそう言う。外も暗闇なのか、真昼なのに光1つ漏れてこない。少しずつ目が慣れてくると、吹き出すような黒い炎のようなものが、何箇所にもある。なんて場所なの……禍々しすぎる……私は足が震えていることを相手に気づかれないように、しっかりと声を発する。
「他国の人だって、傷つくのは見たくないわ。私の命と彼らの命と比べようがないわ」
「そう言えるのも平和な世界にいたからだ!奪われる側はそんな優しい気持ちを持てやしない。なってみるといい。……おまえがいなくなった世界で、皆がどうするのか、見てみたい。特にあの黒竜を宿す彼なんてどんな反応をしてくれるかな?楽しみで仕方ない」
ウオオオオオと魔物の咆哮、バタバタという大きな羽の羽撃きが聞こえる。何体いるんだろうか?声は幾重にも聞こえる。想像つかない数だろう。
頬から冷や汗が落ちる。
ギュッと首につけている銀の護符を握る。
「一つだけ聞きたいの。魔物の発生装置の止める方法は破壊しかないの?」
「無い。破壊するしか無い。ここの地下から湧いてくる黒い渦はすべてを飲み込んでいく」
吐き捨てるようにそう言われた。私は最後に一つだけ尋ねることにする。
「あなたは本当は魔物の発生装置を発動させたこと、後悔してるんじゃないの?」
「うるさい!後悔なんてしていない!人の悪意、憎悪、絶望から生まれる魔物はおまえの感情も糧にしているんだ。知らぬ顔をしていても、黒い心が見えるぞ!美しい綺麗事を並べるなよ!すべてを壊し、セレナを奪った者たちが、最後の一人になるまで魔物に食らいつかせて最後に笑ってやる!この装置を破壊しようとするおまえは邪魔でしかない!」
「私も負の気持ちは持ってるわ。でもその気持ちに飲み込まれ、負けてしまってはいけないと思ってるわ。強くなりたいと思ってる!」
私の言葉と共に、銀の護符は光る。
……呼ぶ。呼応する。
3つの神、すべての国の守護者、ルノールの長。時を越えて、ここに集まる時がきた。
王宮内のお風呂も完成し、数日前にトーラディム王が試しに入ってみたら、ナシュレの温泉と遜色なくて、すごく癒やされると喜んでいたらしいと聞いた。
「温泉、喜んで貰えてよかったわ」
「陛下、久しぶりに無邪気に笑ってたわ。彼の本心からの笑顔はなかなかレアなのよ。私はこのアイスクリーム屋さんが嬉しいわ!夏に最高ね!仕事後にも、よく来てるのよ。全種類制覇しちゃう!」
ミラが隣で、これはさっぱり美味しい!と、サニーサンデーの夏季期間限定のソーダ味のアイスクリームを口にする。私は少し酸味のあるいちごの果実が入ったストロベリー味のアイスクリームだ。サニーサンデーの前に作られたテラス席で食べている。先程から、お客さんが絶えず、アイスケースの前に並んでいた。
平和そのものだった。
嵐の前の静けさだろうか?
……そう、私の予感は当たった。こんな時、当たって欲しくないのに当たってしまう。
少年が後ろに手を組みながら、とても自然にアイスクリーム屋に買いに来たお客さんのようにいつの間にか立っていた。
「よくもこないだはやってくれたね」
平和な風景とはかけ離れた、憎々しげな表情で、言葉を放ってきた。
「それはこっちのセリフだわ。ナシュレを破壊したのは許せないわ」
始まってしまった。ここから始まる。自分の心臓の音がドキドキと緊張感からしてくる。
「あーあー、残念。せめてアイスクリーム食べてからにしてほしかったわ」
ミラが最後まで、食べそこねたと言いつつ、アイスクリームを置いた。全員呼び集めるつもりだ。スッと自然な形で彼女は立ち上がって、構えた。
少年、ガルディンは私を指差す。
「ここで魔物を呼び出せばトーラディム王国の王都はめちゃくちゃになる。民も死ぬよ。どうする?」
「どうする?って、脅してるの?何がしたいのよ?」
ミラが相手を睨み、私を庇うように前へ出た。
「そいつをくれるかな?くれたら、ここに、魔物を放つのは止めてあげる。連れて行きたいところがある」
「わ、私を!?」
ガルディンは私を望む。
「渡すと思ってんの!?」
ミラがそう言うと、少年の姿をし、ずっと生き続けてきた彼は狂気じみた笑みを浮かべた。
「ここの王都の民とどっちをとるの?もし一緒に来ないなら、王都に獣を放つ」
「なんであなたは同じように、悲しむ人を作ろうとするのよ!愛する人を失って悲しむのは皆、同じでしょう!?ここにいる人たちだって同じなのに!」
私は夢で光の鳥が見せたことを思わず口にする。その反応は絶大なものだった。
「おい?何を知っている?何を見た?」
目が怒りで、赤く染まる。手を伸ばされる。ミラがセイラ!と叫ぶ。
「ミラ、ここで魔物を発生させるわけにはいかないわ!先に行ってみるわ」
ダメ!と言うミラの叫ぶ声は遠くなる。黒い空間に引きずりこまれた。視界が揺らぐ。
「ここは……?」
「優しいことだな。他国の民まで思いやって、一緒に来るなど……自分の命が惜しくないのか?」
ガルディンが暗い光の無いところどころ破壊された広間でそう言う。外も暗闇なのか、真昼なのに光1つ漏れてこない。少しずつ目が慣れてくると、吹き出すような黒い炎のようなものが、何箇所にもある。なんて場所なの……禍々しすぎる……私は足が震えていることを相手に気づかれないように、しっかりと声を発する。
「他国の人だって、傷つくのは見たくないわ。私の命と彼らの命と比べようがないわ」
「そう言えるのも平和な世界にいたからだ!奪われる側はそんな優しい気持ちを持てやしない。なってみるといい。……おまえがいなくなった世界で、皆がどうするのか、見てみたい。特にあの黒竜を宿す彼なんてどんな反応をしてくれるかな?楽しみで仕方ない」
ウオオオオオと魔物の咆哮、バタバタという大きな羽の羽撃きが聞こえる。何体いるんだろうか?声は幾重にも聞こえる。想像つかない数だろう。
頬から冷や汗が落ちる。
ギュッと首につけている銀の護符を握る。
「一つだけ聞きたいの。魔物の発生装置の止める方法は破壊しかないの?」
「無い。破壊するしか無い。ここの地下から湧いてくる黒い渦はすべてを飲み込んでいく」
吐き捨てるようにそう言われた。私は最後に一つだけ尋ねることにする。
「あなたは本当は魔物の発生装置を発動させたこと、後悔してるんじゃないの?」
「うるさい!後悔なんてしていない!人の悪意、憎悪、絶望から生まれる魔物はおまえの感情も糧にしているんだ。知らぬ顔をしていても、黒い心が見えるぞ!美しい綺麗事を並べるなよ!すべてを壊し、セレナを奪った者たちが、最後の一人になるまで魔物に食らいつかせて最後に笑ってやる!この装置を破壊しようとするおまえは邪魔でしかない!」
「私も負の気持ちは持ってるわ。でもその気持ちに飲み込まれ、負けてしまってはいけないと思ってるわ。強くなりたいと思ってる!」
私の言葉と共に、銀の護符は光る。
……呼ぶ。呼応する。
3つの神、すべての国の守護者、ルノールの長。時を越えて、ここに集まる時がきた。
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