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ファッションリーダー

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 ナシュレでファッションショーが開かれる。流行りものに敏感な女性達が宿泊し、旅館内は賑やかだった。

 新聞社からはジェシカが来ていた。メガネをキラーンと光らせる。

「このファッションショー、見所は一番人気のデザイナーのジョゼフィーヌさんです!10代、20代のドレスのデザインを手掛けていて、人気すぎてオーダーメイドで作るには一年待ちだそうです」

 すごい人なのねーと私は驚いているとジェシカはセイラさんも人の生活様式変えちゃうくらいなんで、十分すごい人なんですけどねと笑って肩をすくめた。

 その噂のジョゼフィーヌさんが『花葉亭』に宿泊するのだ。私は玄関で出迎える。長いライトブラウンのくせっ毛を流行りの髪型に纏めてあり、赤い花のついた帽子と赤いドレスを着ている。高いヒールの靴をカッカッと言わせている。
 
 彼女の後ろには派手なドレスを着て、控えている二人の女性がいた。たぶんお弟子さんか秘書なのだろう。何かジョゼフィーヌさんが話すたびにメモをとっている。

「いらっしゃいませ………えっ?」

 私は挨拶したが、ジョゼフィーヌさんは色んな物に気を取られて入ってこれない。

「な、なんですのぉ!?この傘!?模様がついてますのネ!?」

「和傘ですわ。よかったら開きましょうか?」

 私がそう言うと、すべての傘の模様を見る!と言い、ジョゼフィーヌさんは傘を開かせて並べると満足げになるほどネと呟いた。

 フリッツが作務衣でトコトコ現れた時やお風呂係のスタッフが半被で通り過ぎた時の反応もすごかった。

 ぐわっし!と掴みかかり、ぎゃー!と悲鳴をあげている相手を無視して、体中触りまくり、このデザインはなんですの!?と大騒ぎしていた。

「天才って、変わり者が多いのかしら?」

 私が困ったわと頬に手をやると、髪の毛まで乱れているフリッツは解放されたらしく、よろめきながら言う。

「身の安全を確保してくださいよ!」

「そ、そうね……ジョゼフィーヌ様、よろしければ作務衣と半被の予備を一枚ずつ差し上げますわ」
 
「良いんですの?それは助かりますネ!!」

 喜ぶジョゼフィーヌさん。スタッフとフリッツが扱い慣れてますねと冷静な私に言う。

「トトとテテに相通じるものがあるわ」

 なるほど……と誰しもが頷いたのだった。

 留まるところを知らず、ジョゼフィーヌさんは障子戸、花瓶、食事のお皿に……目に映るものすべてのものに興味を持った。

「ファッションショーは休みますわ!それどころではないのネ」

『ええええええ!?』

 その場にいた全員が叫んだ。

「ど、どどどうしてですか!?何か旅館に不満がありました!?」

 さすがの私も焦る。逆ですの!と彼女は言う。

「素晴らしいものがありすぎて、ショーへ行く時間はないですの」

 困ったわ……こんなことになるなんて。いたく和風の旅館が気に入ってしまったらしい。インスピレーションが沸いたとかで、デザイン画を書きまくっている。

「うふふふ。わたくしはこの国のファッション文化の象徴ですのネ!常に先へ!常に新しく!うふふふ」

 ………だめだ。私もスタッフもお手上げだ。いや、諦めるな!と私は頭をフル回転させる。ファッションショーにジョゼフィーヌさんが来てくれることを楽しみにしているオシャレ女子のために!

「そうです!新しいものと言えば……私、ジョゼフィーヌさんに見てもらいたいものがあります。でもそれは……」

「なんですの?」

 私はしばらくお待ち下さいねと言って屋敷へ一度戻る。

「こっ、これはなんですのー!ワンダフル!!ビューティフル!!」

 見せたものに手が震えるジョゼフィーヌさん。着物の布地である。新しい領地のカシューで作らせて産業の一つにしようと思っていたんだけど、まさかこのタイミングに出すことになるとは思わなかった。

「……すべてのお針子を!スタッフを!ここに呼びなさいっ!今すぐ!ファッションショーで発表するのネ!セイラさん、お願いがありますのネ」

 私の両手を握られる。

「ぜひ!この素晴らしい物の発表はあなたがモデルをしてほしいのネ!」

「えええええええ!」

 私の叫びが響く。普段は無理ですと言わないようにしている旅館の女将の心得……しかしこれは無理です!と口にしてしまいそうだ。

 三日後。ジョゼフィーヌさんのファッションショーは大盛況。お客さんが見つめるランウェイ。足が震えつつ、歩く私がいた。

 どうしてこうなったああああ!?緊張を隠しきれているだろうか?ニッコリと笑顔を振りまく。

「なに!?あの形のドレス!新しいわ!」

「布が綺麗な模様ね!」

 着物風のドレスで登場。とても好評で……観客が沸き立つ。終わった私は冷や汗をかいていた。

 ジェシカが最高の記事が書けそうですと笑っていた。スタッフが慌てて、その新聞をもってきてくれたのたが、記事に私がドレスを着てポージングしているのが載っていて、直視できなかった。これは……恥ずかしすぎると机に突っ伏す私に大丈夫です!綺麗ですよ!とスタッフが慰めの言葉をかけてくれる。

 後日、ジョゼフィーヌさんは自分がスランプに陥っていて、助けてもらったと手紙と共に着物風のドレスを贈ってくれた。

「あんまり綺麗なセイラを他の男に見せたくない」

 リヴィオがファッションショーを終えて、そう評した。苦い顔だ。私は何、冗談言ってるのよとからかいたくなった。

「え!?なになに?フフフッ。やきもちなのー?」

「………嫌だった」

 リヴィオらしくない反応を返されて、予想してなかった私は固まる。

「よりにもよって、着物かよ……はぁ……やられた。なんなんだよ?綺麗すぎる!ヤバイ……あれは惚れるだろ。なんで他のやつに見せなきゃだめなんだよ」

 ブツブツ言うリヴィオの言葉は聞こえないふりをした。

 自分の顔が火照ってきて、赤くなっているのがわかる。どの人に褒められようが、きっとリヴィオの褒め言葉に敵うものはないと思うが……いっそ、なんであんな所に立っていたんだよーと笑いとばしてほしいのよっ!と写真が載っている新聞を隅に追いやり、そう思う私なのだった。

 私にファッションモデルには向かない。そんな経験であった。
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