上 下
185 / 319

彼女はめんどくさがり屋

しおりを挟む
「こんなに逸材がいる年はめずらしい。歴代最強の三人」

「まずセイラ=バシュレ、そしてリヴィオ=カムパネルラとジーニー=エスマブル。この三名の能力、魔力は並外れて高い」

 そう先生方が言っているのを偶然耳にしたことがある。

 エスマブル学園に入学して何年目のことであっただろうか?

「セイラ!そこ、どきなさいよっ!」

 またこの人?なぜか絡んでくる人がいる。私は冷たく一瞥する。廊下は広いのにわざわざ横に広がり、五人で歩いてきて言うセリフ!?

 とてつもなく、めんどくさい……私は無視して、スタスタと近づく。普通に歩いて行き、中央突破した。女子の一人がキャッと可愛い声で避けた。

「なっ!なんで平然と通って行くのよおおお!」

 やや怯えた表情をされたが、自然と避けてくれたということにしておこう。私はめんどくさい人だと思いつつ、教室へ入る。

「またダフネがセイラにからんでるのか。しつこいな」

 リヴィオが自分のことのように嫌そうに顔を歪めて、そう言う。公爵家の坊っちゃんのくせに机に座り、行儀悪い。逆にキチンと椅子に座り、ハハッと笑う優等生のジーニー。

 女子生徒に大人気の二人は見た目も家柄も他に並ぶものはいない。一人でも目立つのに二人でいるから、よけいに目立つ。

「セイラ=バシュレ!いる?」

 ドアのところに立っている人が私を呼ぶ。

「はい?私です」

 返事をすると、ちょっと顔貸しなさいよと……多分、最高学年の先輩方?だと思う。四人の女子生徒達が私をドアのところへ呼びつけて、ジロリと見る。

 女子生徒達は集団で行動するのが好きだ。そのほうが学園生活を楽しくすごせるなら、それはそれで良いのだろう。

 私達は幼い頃から寮生活で、両親と離れて過ごしてる分、友人たちとの距離が近いのかもしれない……と分析してみる。

「フーン、あんたがねぇ」

「どこが最強で優秀なのかわからないけど、リヴィオ様やジーニー様がそう言われているのは納得よ?」

「こんな冴えない子が?笑っちゃうわ」

「先生方に取り入るのが上手いだけでしょ?」

 もしかして悪意を向けられてる?見たことない人達なんだけどな。

「ちょっと来なさいよ」

 お昼休みは後20分しかない。私はちらりと時計を見た。

「15分間だけならば大丈夫です」

 良いから来なさいよ!と半ば無理矢理連行される。強引な人達である。連れて行かれたのは演習場。

「卒業前にちょっと相手してあげようと思ってんのよ!」

「後輩の指導してあげるのよ。有り難く思いなさい!」

 先輩がどうやら、戦闘術の手合わせをしたいってことなのかな?卒業前に私と?卒業記念だろうか……その割に殺気立っているが。

 ごちゃごちゃ考えてる暇はない。何せ授業まで時間がない!さっさと終わらせよう。終わるまで離してくれなさそうだし。

「なんだ。それなら、そうと言ってくれたら良いのに、びっくりしました。悪意を向けられているのかなって思いました」

 私はニッコリと微笑んでみせた。

『え!?』

 先輩達が私の微笑みに動揺した。もう心理戦は始まっている。

「ちょ、調子にのらないでよねっ!」

「なに、余裕ぶってるの!?」

 一人が苛立ちながら、捕縛の術をいきなり放つ。もう一人が氷系の呪文を唱え始めるのが見えた。

 私はタタタタタッと走って捕縛の術を軽く避ける。ありがちな戦法だ。私は右手で床に触れ、術を発動させた。ドンッという振動が起こる。広範囲に渡って、地面が割れる。

「キャア!!」

 立っている場所が崩れた驚きで、彼女たちの呪文の詠唱が止まる。地割れした床に付いた手を反動にし、くるっと前転して素早く次の術を紡ぐ。

 辛うじて、詠唱を中断しなかった一人の先輩の完成させた術が私を襲う。大きな岩の塊かズンッと落ちてきた。相手はニヤリと笑う。

「潰れなさいっ!」

 私は唱えておいた術にもう一つの術を被せる。

「なっ!?ど、どういう術の使い方を!?」

「一度に二つの術!?」

 バリバリと感電するような雷と岩を半分に割る衝撃波が同時に発動した。

 キャアアアという叫び声で先輩達は雷に感電し、動けなくなる。岩は2つに割れて転がる。

 私は手の中に剣を生み出す。四人の先輩達に向ける。衝撃波で吹っ飛ばし、一気に終わらせよう。

「すいません、時間が無いので、これで終わりで……」

 待って!と彼女達が叫ぶが、私は構わず、剣を横に一閃しようとした。その瞬間、呑気な声がした。

「もうすぐ授業始まるぞー」

「相変わらず、見事だな」

 リヴィオとジーニーが来ていたらしい。時計を見ると……ピッタリ三分前!私は慌てる。授業が始まってしまう。

 剣を消し、場の修復の術を素早く構成して、パチンと指を鳴らして放つ。何事もなかったように綺麗に元に戻る演習場。地面のボコボコも元通りだ。

「えっ……この規模の修復を一瞬で………?」

「な、なんなのよ?」

 呆然としている先輩方。

「呼んでくれてありがとう。授業に遅刻するわね」

 私は足早に教室へと向かう。リヴィオとジーニーが私の後で早歩きしながら喋っている。わざわざ呼びに来てくれたのかしら?

「心配するほどでもなかったか」

「それでこそ僕らも納得できるだろう。簡単にやられるようでは首席はとれない」

「わかってるよ!でも……別に心配くらいしてもいいだろっ!」

 やれやれとジーニーがリヴィオを見て笑ってる。二人共仲良しだなぁ。

 ちょうど演習場をでると、風紀委員がいた。

「私闘を行っている生徒がいると聞いたが?」

 どこから聞きつけたのか、めんどくさい。ここで風紀委員にまで目をつけられたら、とてつもなくめんどくさい。

「卒業記念に私に手合わせしてもらいたかったようです。卒業前に演習を少しでもしようとするなんて、先輩方は勉強熱心ですよね。私も指導して頂きました」

 私はとっさに勉強熱心な生徒を装う。絡んできたのは先輩方だろうから、処罰はあちらになるだろうが、聴取されるのはめんどくさすぎる。……ので、適当にごまかそう。

「本当に一方的ではないのだな?通報してきた生徒によると四対一であったと聞いているが?」

「多少のハンデは必要ではないかしら?たいした演習ではありません。怪我人もいませんし、演習場も綺麗なものです。その目で、確かめに行かれたらいかがですか?」

「ハンデ……ね。その発言はセイラ=バシュレならではだな」
  
 風紀委員がそう言うと、真偽を確認するために演習場へといった。

「いいのかよ?素直に言えば、処罰はあっちだろ?」
 
「僕たちが証人になっても良かったのに」

 リヴィオとジーニーは苦い顔をした。

「これでいいのよ」

 先輩方を庇ったわけではない。私は肩をすくめる。

 授業後の自由時間や自習時間をめんどくさいことにとられたくない。課題もあるし、読みたい本もある。

 教室へ入ると同時に始業の鐘がなった。間に合って良かった。

「なんだかセイラは目が話せないな」

 私の保護者みたいなことをなぜかリヴィオは言った。失礼だわ。リヴィオのほうがヤンチャじゃない!彼に言われるなんて納得できないわ!と思ったのだった。

 リヴィオはこのときはまだ知らない。目が離せないその理由を。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います

榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。 なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね? 【ご報告】 書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m 発売日等は現在調整中です。

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

悪役令嬢は処刑されました

菜花
ファンタジー
王家の命で王太子と婚約したペネロペ。しかしそれは不幸な婚約と言う他なく、最終的にペネロペは冤罪で処刑される。彼女の処刑後の話と、転生後の話。カクヨム様でも投稿しています。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います

登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」 「え? いいんですか?」  聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。  聖女となった者が皇太子の妻となる。  そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。  皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。  私の一番嫌いなタイプだった。  ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。  そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。  やった!   これで最悪な責務から解放された!  隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。  そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。

処理中です...