上 下
184 / 319

何事もほどほどがちょうど良い

しおりを挟む
 本日のお風呂は『レモン風呂』お肌すべすべ効果と柑橘系のさっぱりとした香りが癒やしてくれる。

「なんだか酸っぱい気持ちになるのだ!」

「レモンティーの中にいる気になるのだー」

 バシャバシャと喜ぶ二人。私もお湯にゆっくり浸かって、くつろぐ。湯気と一緒に立ち上る香りが心地良い。久しぶりにトトとテテとのんびり温泉に入った気がする。

「またイーノ兄様が来てるのだ」

「不快なのだ」

 ゼイン殿下とイーノが度々『花葉亭』に遊びに来ている。王宮は息が詰まるらしい。

 たまに顔を見るらしく、嫌そうな双子ちゃんらしい。

「トトとテテはなんでイーノと気が合わないの?」

「フォスター家はもともと王宮魔道士の家系なのだ」

「我らは異端児であったから、色んな嫌がらせを受けていたのだっ!特にイーノはひどかったのだー」

 そうなのねと頷くと、回想し始める双子ちゃん。  

「おまえら魔力を持ちながら、なぜ真面目に魔法を学ばないんだ!?」

 そう最初に怒ったのは叔父だった。当主たる母は王都で過ごすことが多く、父は強気の叔父にはあまり言えなかった。

「トトとテテは好きなことをするのだ!」

「魔力をこめた道具を作ることも、魔法と関わっているのだ!」

 二人だったから、平気で言い返していたが……。

「フォスター家の面汚しだな」

 そう辛辣に言うのはイーノだった。小さい頃から高い魔力を持ち、将来は王宮魔道士になることは確実だと言われ、いつも我らを下に見ていた。

「うるさいのだ!」

「やつは敵!敵と見なしたのだ!」

 ぎゃあああとイーノが庭で叫ぶ。どうやら、落とし穴にはまったらしい。

 ある日のことだった。

「エスマブル学園に行くんだって?金の無駄遣いだろ。フォスター家のために花嫁修業でもしていたらどうだ?」

 父様と母様は我らの特殊な技能を認めてくれ、親戚達に何を言われようと、伸ばしてくれようとしていた。魔道士にならないかもしれない道を歩こうとしていることにイーノは面白くなく、そうやって嫌味をいってくる。

「こ、これはなんだーー!?」

 イーノの体に巻き付くベトベトの網。部屋のドアを開けると落ちてきた。

「あ、あいつらああああ!」

 ドドドドドドと走ってくるが………運動能力はトトとテテの方が高い。軽やかな走りを見せてやる。

「追いつけるものなら追いついてみるのだ!」

「今日こそ、決着をつけるのだ!」

 こっのおおおお!と魔法を使おうとした瞬間にバッとトトとテテは杖のような物を構えた。ギクッとして立ち止まるイーノ。

「動くな、なのだ~!」

「動いたら撃つのだ~!」

 ま、待て!と後ずさりするイーノ。発射ー!!とポンポンポンと煙と共にイーノに襲いかかる………臭い匂い。激臭が立ち込める。屋敷の使用人達も大騒ぎしだす。

「臭っ!臭すぎる!!動いていないのに、けっきょく撃つんじゃないかーーー!?」

 ………ちょっと待って?と二人の回想を止めた。

「あの……王宮魔道士になれと周りから言われて、それで……えーと……嫌がらせを受けてた?と?」

 チャポンとお湯の中で足を伸ばして、そうなのだと言う双子ちゃん。

「さっきから聞いていたら、むしろイーノの方が酷い目にあってるのは気のせいなのかしら?」

「気のせいなのだ!」

「ちなみに他の嫌がらせする兄弟達も同じ目に合わせてやったのだ!」

 まだ被害のあった兄弟がいるらしい……ちょっとフォスター家の面々に同情した。

「フォスター家が嫌だから、あまり帰らないの?」

「ちがうのだー。単なるめんどくさいだけなのだ」

「親戚のやつらと兄弟はうるさいが、別に負けたことはないのだ」

『常勝なのだっ!』

 ……あれっ?勝ち負けの問題の話してたっけ!?

「ま、まぁ、わかったようなわからなかったような気がしたけど、つまり、話をまとめると、トトとテテの自由を奪う者は敵ということなのね」

『なのだーっ!』 

 アハハハと笑って、二人は打たせ湯の所で打たれている。

「セイラ、フォスター家に行ってみたくはないのだ?」

「え!?そ、そうねぇ……まぁ、興味はあるわね」

「それは良い案なのだ!セイラとなら帰っても楽しそうなのだ!」

 トトとテテがヒャッホーイと盛り上がっている。たまには他の地を見ても良いかもしれないわと私は二人の喜びようを見ると、断れそうになかった。

 お風呂上がりにレモンシャーベットやレモンスカッシュ、レモンの砂糖漬け、レモン水、レモンのお茶、レモネードを用意してあった。

「どうだった?お客様にもレモン風呂を味わってもらおうと思ってるんだけど?」

 二人は言った。酸っぱい顔をしている。

「お風呂上がりのレモンづくしは美味しいけど、自分もレモンになったような気がするのだ」

『やり過ぎなのだー』

 二人にやり過ぎと言われると本当にやり過ぎたと思える私なのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います

榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。 なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね? 【ご報告】 書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m 発売日等は現在調整中です。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

悪役令嬢は処刑されました

菜花
ファンタジー
王家の命で王太子と婚約したペネロペ。しかしそれは不幸な婚約と言う他なく、最終的にペネロペは冤罪で処刑される。彼女の処刑後の話と、転生後の話。カクヨム様でも投稿しています。

ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。~旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます2~

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
 第二夫人に最愛の旦那様も息子も奪われ、挙句の果てに家から追い出された伯爵夫人・フィーリアは、なけなしの餞別だけを持って大雨の中を歩き続けていたところ、とある男の子たちに出会う。  言葉汚く直情的で、だけど決してフィーリアを無視したりはしない、ディーダ。  喋り方こそ柔らかいが、その実どこか冷めた毒舌家である、ノイン。    12、3歳ほどに見える彼らとひょんな事から共同生活を始めた彼女は、人々の優しさに触れて少しずつ自身の居場所を確立していく。 ==== ●本作は「ボロ雑巾な伯爵夫人、旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます。」からの続き作品です。  前作では、二人との出会い~同居を描いています。  順番に読んでくださる方は、目次下にリンクを張っておりますので、そちらからお入りください。  ※アプリで閲覧くださっている方は、タイトルで検索いただけますと表示されます。

処理中です...