上 下
161 / 319

賑やかなお客様

しおりを挟む
 おばちゃんたちが5人。賑やかに受け付けに来た。

「あらぁ!ここに名前を書けばいいの!?」

「そうです。五名様のお名前を……」

 受け付けスタッフが言い終わらないうちに、一人が、みんなーーっ!と声をかける。

「ここに名前を書くんですって!」

 どこどこ!?一斉に受け付けに詰め寄る。ドドドという音が聞こえた気がした。

 フリッツはポソッとなんか怖い……と呟く。

「ようこそお越しくださいました。お疲れではありませんか?」

 私がにこやかに挨拶をすると10個の目がじいいいっと見てくる。

「あなたが!あの有名な女将!?」

「ほんとにお若いのにすごいわね!」

「ここ、お料理もおいしいのですって!?」

「食べすぎて太ったらどうしましょー!」

「お風呂は!?お風呂、どこ!?もう入っていいの?」

 フリッツが2、3歩下がる。騎士を圧倒するおばちゃんたちの気迫がすごい!
 
 私は一呼吸置いてから話す。

「実りの秋の料理を存分に堪能して頂きたいと思います。お風呂は一階と二階にございます。お部屋までお荷物を運ばせていただき、お茶とお菓子を召し上がって、休まれてからお風呂に入られますか?」

 ハッ!と我に返ったフリッツがお客様の荷物を持つ。

 お部屋までも賑やかで、エレベーターに乗るとキャー!高いー!眺め良いわーと大騒ぎだった。

 フリッツが無事に部屋へお客様を案内できたのを見届けて、疲れた顔をした、

「すごい元気な女性たちです……」

「こっちも元気もらえるわよね」

 私の言葉にええええ!?と賛同できないらしくフリッツが声をあげた。

「元気を吸い取られてますよっ!?」

 そう?私は嫌いじゃないノリでむしろ好きだわと笑った。

 彼女たちは元気だった。

「お風呂何回入った!?」

「3回よ。ほーら、肌を見てみなさいよぉ」

「このハーブの香りいいわね!売店で石鹸を1つ買っておくわ!」

 お風呂の後も。

「こんなに美味しい料理、明日から普通の料理食べられないじゃなーい!」

「ちょっとー!飲み物おかわりー!あら?あっちのお客さん飲んでるの美味しそうねぇ。あれちょうだい!」

「おなかいっぱいで食べられなくなってきたわ。持ち帰って良いかしら?」

 夕食の時も。

「うちの旦那なんてねぇ。なんにもしないのよ!休みの日はゴロゴロと寝てばっかり!」

「わかるわぁ。こっちは子どもを抱えて働いてるのにね」

「こないだなんてね、オイ!シャツをどうしたって偉そうに言ってきてさ。あんたのお尻にひいてるわよ!と笑っちゃったわよ」

「まだマシよ。メガネを探してて、頭の上にのっているのを見たときの旦那の間抜けさったら!」

「誰の世話もしなくていいのって最高よね!」

 食後のお茶を飲みながら、アハハハと笑い声が耐えない。フリッツが頬に汗を垂らす。

「うちの妻もあんなふうになりますかね?」

「たくましくていいじゃないの」

 ジッとフリッツは私を見る。

「セイラさんはリヴィオさんのこと、あんなふうに人前で言わないでくださいよ!?」

 ……そこは敬愛するリヴィオの心配をするのね。

「ああやって、ストレス発散してるんだもの。健全よ。それに旦那さんのことをああやって言っててもねー。フリッツ、帰りを見てなさいよ?」

「帰り……ですか?」

 次の朝、売店におばちゃん達がいた。

「あら!女将さん、お部屋で頂いた、栗のお菓子美味しかったわぁ。旦那にも1つ食べさせてあげたいんだけど、どれかしら?」
 
 私は箱を手に取り、おまんじゅうの中に栗が入っていて美味しくて好評なんですと手渡す。

「温泉の素買っていくわ。家で温泉気分を家族で味わうわ~。旦那、疲れたーってすぐ言うから、温泉成分で疲れも少しはとれるでしょ!」

 私は温泉の素コーナーはここですーと教えた。

「ナシュレ産の地酒も飲みやすくてよかったわ。旦那に買っていくわ。これもちょうだい!」

「ご近所にも配るお菓子買わなきゃ。あら、この干物も買っていって皆で食べましょ♪」

 ど、どういうとこですか!?フリッツが私に尋ねる。

「こういうもんなのよ~」

 日本の旅館でもよく見たわーと私は笑った。

「あんなこと言って笑っていても、旦那さんや家族が大切なのよ。日頃の愚痴を言い合って、また家では良い奥様をするんですもの。いいじゃないのー」

「そうなんですか!?謎すぎます!」

 そう言って、フリッツは元気なおばちゃん達をやや距離感を保って見ていた。私は行くわよ!と声をかける。

「彼女たちが帰って、お土産をご近所に配り、温泉旅館の良さを口コミで広げてくれるのよ。もう神様みたいなものなのよ!さあ!お帰りまで、サービスするわよ!」

「ひえええええ」

 私の励ましに、情けない声をあげるフリッツだった。



 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います

榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。 なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね? 【ご報告】 書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m 発売日等は現在調整中です。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

【完結】間違えたなら謝ってよね! ~悔しいので羨ましがられるほど幸せになります~

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
「こんな役立たずは要らん! 捨ててこい!!」  何が起きたのか分からず、茫然とする。要らない? 捨てる? きょとんとしたまま捨てられた私は、なぜか幼くなっていた。ハイキングに行って少し道に迷っただけなのに?  後に聖女召喚で間違われたと知るが、だったら責任取って育てるなり、元に戻すなりしてよ! 謝罪のひとつもないのは、納得できない!!  負けん気の強いサラは、見返すために幸せになることを誓う。途端に幸せが舞い込み続けて? いつも笑顔のサラの周りには、聖獣達が集った。  やっぱり聖女だから戻ってくれ? 絶対にお断りします(*´艸`*) 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/06/22……完結 2022/03/26……アルファポリス、HOT女性向け 11位 2022/03/19……小説家になろう、異世界転生/転移(ファンタジー)日間 26位 2022/03/18……エブリスタ、トレンド(ファンタジー)1位

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

処理中です...